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今、日本企業に必要なこと: 本来のマーケティングの意味とは?
私は日本で広告担当役員やマーケティング・コンサルタントとして仕事をしてきた31年間、「日本企業やその多くの幹部がマーケティングを理解していない」と感じる機会が何度もありました。そう感じているビジネスマンは他にもたくさんいるでしょう。それ故に、マーケティングは日本のビジネスモデルにおいて中枢的機能を果たしておらず、企業の意思決定にあたってはほんの小さな役割しか担っていません。
日本企業が早急にマーケティングを取り入れなければ、グローバル市場においての競争力が(さらに)弱くなるリスクを負うことになります。Apple社や韓国系ブランドに打撃を受けた日本の機械メーカーの例を、日本の他の産業は警鐘として捉えるべきです。
なぜそこまでマーケティングが重要か?
ビジネスの目的は顧客を生むことであるから、企業経営の基本機能はただ2つだけ、それはマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションは結果を生み、その他はすべてコストである。~Peter Drucker
ドラッカー氏のこの前提は、大半の日本のCEOにとっては予想外のものでしょう。彼らはこの「マーケティング」の部分を「技術設計」や「製造」という言葉に置き換えるはずです。
日本企業のマーケティングが発達しないのには以下の3つの理由があります。
1)言語
英語で「marketing」という言葉が現在のような意味で使われ始めたのはほんの100年余り前からです。しかし日本語には、そのままマーケティングを意味する直訳的用語や概念は存在しません。
代わりに、 外来語表記のカタカナを使って「マーケティング」とし、一目見て外国から由来した言葉あるいは概念であることが分かります。これまで何人もの人が「marketing」に対応する漢字表記を示してくれましたが、実際は「市場調査」や「販売促進」といった本来の「marketing」とは異なる意味のものでした。
分かったことは、ほとんどの日本人にとって、マーケティングというのは、言葉そのものからや欧米人にする説明の仕方では理解してもらえないということでした。ですから、日本企業やその幹部に理解してもらうためにはこれまでと異なる形での説明や意味付けが必要となります。
2)文化的歴史背景
日本語で言う「もの」と「作り」という言葉は、合わせると文字通り「ものを作る、創作する」過程を意味しますが、比較的最近になって使われるようになった「ものづくり」という言葉にはもっと深い意味があります。「ものづくり」は質の高い製品を作りたいという思いと、それを作る仕組みや過程を常に向上することのできる能力とを組み合わせたものです。
日本の事業において、ものづくり(そして事業の方向性)の駆動体となるのは製品を作る技術者たちであって、組織内においてのマーケティング担当者の位置付けはもっと低いのです。
これは、江戸時代(1603-1868)に徳川幕府が日本社会に安定化をもたらした「士農工商」(4つの社会構成要素)の社会制度を作りだしたこととよく似ています。侍(官吏)は、他の階層の人々に範を垂れるということから社会の最高位に位置付けられました。
その次に重要な位置付けを与えられたのは、農耕を行い、食物という最も重要な産物を生産する農民でした。第三に職人や熟練工、そして商人はものを生産することなく富だけを生み出すことから、社会制度の一番下に位置付けられました。これらの身分は富や資産によってではなく、儒学者の言うところの「道徳的清廉さ」によって決定されたのです。
現代の日本の企業においてもこのような組織体制が見受けられます。マーケティング担当者は江戸時代で言う商人の身分であり、技術者は侍、その他の部門は農民や職人にあたるのです。
3)教育
基本的に日本の大学にはマーケティングという専攻は設けられていません。マーケティングを専門職の一分野、また学士号やMBAレベルで主専攻として保持している欧米の大学教授とは異なり、日本の大学教授は大学や実業レベルでのマーケティングの経験がありません。企業においてもマーケティングに関するワークショップやプログラムはありませんし、専門職としての分野自体ありません。
年齢に関係なくマーケティング部に配属となった社員は、仕事をしながら自分で覚えていかなくてはならず、マーケティング担当としての適性は度外視されます。したがって、広告代理店のような外部のサプライヤーに過度に依存することになるケースも珍しくありません。
また、役員やマネージャー、従業員の中で、大学や企業内であらかじめマーケティングの基礎について訓練を積んだ者はごく少数で、得られた経験・知識を維持しマーケティング部門の後任者に継承していくということもあまり見られません。結果的に、専門性がなく陳腐なマーケティングを永遠に繰り返すことになるのです。
「ポケットに1000曲を」
ソニーの盛田昭夫氏が、同社の技術者らを指揮してウォークマンを製作した1979年、彼は人々の音楽の聴き方に改革を起こしました。それから20数年後、Apple社の創始者スティーブ・ジョブス氏がiPodを発売し、ポータブル音楽プレーヤーにふたたび改革をもたらしました。
ジョブス氏は、この画期的な製品の発売に当たって、「iPod-ポケットに1000曲を」というスローガンを掲げました。同様の製品を日本の電子機器メーカーが開発していたら、このような発表をしていたのではないかと想像します:
「今日、当社は“イージーキャリーXVZ-22R”というポータブル音楽プレーヤーの新製品を発表致します。重さわずか180グラム、ちょうどシャツのポケットくらいの大きさで、膨大なデジタル能力を誇り、長時間使用可能なバッテリーを備え、また光のように高速なデータ伝送が可能です。この“イージーキャリーXVZ-22R”は、さまざまな機能やカラーを組み合わせ、さらに多くのバリエーションでリリースされる予定です。」
スティーブ・ジョブス氏は、重要なセールスポイントをPRし、ブランドとして印象付けるために、シンプルな一文のスローガンという形でマーケティングを利用しました。消費者に向かって、技術者がするように多くの専門用語や数字を羅列するようなことはしなかったのです。Appleは現在、世界で最も価値あるブランドの一つです。一方で、盛田時代以後のソニーは、特に世界的評価を得てきた電子機器分野において、将来の方向性を決めかねています。
戦略 vs 戦術
多くの米国企業には、CEOへの報告を行う主任マーケティング役員(CMO: Chief Marketing Officer)という役職を設けています。CMOはセールスとも異なり、マーケティングの一切の責任を負う個人の役職です。一方、マーケティングが事業の主要機能ではない日本企業には、CMOという役職は存在せず、日本企業においてマーケターは、「戦略家」ではなく、むしろ「戦術家」なのです。
実際私は、米国のようなCMOは日本企業では機能することはないと思っています。というのも、日本では個人主義的な働き方ではなく、グループやチームを基本に仕事をするからです。効果的に機能させるには、CMOという役職はより集団的な性格を持った機能として採り入れられなくてはなりません。
日本の文化に合わせた解決策としては、消費者マーケティングチーム(CMO: Consumer Marketing Office)というように名称を改め、機能を再定義することが必要です。
日本式CMO(消費者マーケティングチーム)は、CEOに直接報告を行い、セールスとマーケティングを異なる二つの独立した業務に分け、それぞれの役割を明確にします。社内でのマーケティングの地位は高まり、専門的キャリアの確立やトレーニングにつながることになります。
前線からリードする
国内市場が縮小し高齢化する中、ビジネスにおける日本の将来が国外にあるというのは明白です。日本企業のCEOやその経営陣は、社内でのマーケティングの地位を上げるために最適な方法を見つけ出さなくてはなりません。
マーケティングを事業の中枢的任務として受け入れていくことは日本企業においても可能です。これまでにも、コカコーラ、P&G、マクドナルド、その他多くの欧米企業が、全く新しいブランドや製品部門で(文化的適性を配慮した変更を加えた上で)日本市場に参入し日本の消費者に受け入れられてきました。
これら多くの企業はそれぞれの分野で主導的地位を得ています。こういった成功はマーケティングによってもたらされたものであり、日本人マネージャーを採用して独自のマーケティング手法の教育を行い、大きな成功を収めてきた例なのです。
このような十分訓練を受け、経験を積んだ多くの日本人マーケティングエキスパートたちは、自分のマーケティング知識と技能を生かしたいという野心を持って伝統的な日本企業に転職を試みてきました。しかし、その多くは、これまで述べたような理由から反発の固い壁にぶち当たって、フラストレーションと後悔だけに終わったというケースがほとんどです。
ビジネスの中枢機能としてマーケティングの重要性を理解し、米国の影響を受けたマーケティングシステムや手法を取り入れて全面的にマーケティング活動に取り組む、進歩的な姿勢を持ったCEOのいる日本企業も少なからず存在します。こうした企業は、世界規模で事業を拡大することに成功してきました。
日清食品、カルビー、ユニクロ、楽天がその良い例でしょう。
日本に必要なのは、もっと進歩的な考えを持った日本人CEOがマーケティングで大成功を収めてることです。マーケティングを積極的に取り入れることが日本企業のイノベーションリーダーとしての地位を維持するうえで、また顧客や金融業界に認識される自社のブランド価値を上げるうえで有効であるという例を日本のビジネス社会に示すことです。
もし日本企業がその姿勢を変えなければ、ハリウッド映画「ラスト サムライ」の21世紀リメイク版は「ラスト エンジニア」というタイトルがつけられることになりかねません。道徳的に清廉・・・だが、顧客はほとんどいない技術者・・・というシナリオで。
ロバート・E. ピーターソン – Guest Contributor マーケティングやコミュニケーションに関わる問題解決のコンサルティングを行うウィッカボーグ・コンサルティング・グループ(Wickaboag Consulting Group)社社長。東京在住。1999年にコンサルティング業を開始する前は、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社およびサーチ・アンド・サーチ(Saatchi & Saatchi)社に勤務。トヨタを30年来の顧客として持ち、電通のコンサルタントとしても地位を確立している。 |
Photo by: Yoshikazu TAKADA
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