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成長へのスパイラル
今までずっと悩んでいた。アメリカで会社を経営しておおよそ10年、自分自身が何にどこまで詳細まで関わって行くべきなのか。設立当初は自分がチーフデザイナーとなり、自らが率先してプロジェクトをリード。周りのスタッフは優秀なアシスタント的な存在であった。
そして少しずつスタッフの成長と人員補充を進め、組織としてある程度仕事を任せられる状態に。しかし正直なところ、今でも仕事での多くのプロジェクトやタスクにおいて自分が深く関わって行きたいと思う事も多い。
現在会社は、自分よりも優秀なスタッフで構成されてるが、自分が全く関わらないと、プロセスを含め100%思い描いていた通りになる事はほとんど無い。とてももどかしい思いをいつもしてしまう。
その一方で、どんどん任せて行かないと会社のキャパシティーが大きくならないし、スケールしなくなる。何よりも、スタッフが”信用してもらえてない”と思ってしまうかもしれない。
実際、スタッフに”求めるゴールだけ設定して、やり方等は全て信頼して任せて下さい。マイクロマネージは止めて下さい。” と言われたのも一度や二度のことではない。
しかし少なからず不安もある。実際にゴールが達成出来なかったり、出来上がったもののクオリティーが低かったらクライアントに迷惑がかかるし、最終的に責任を取らなければいけないのは自分である。
なによりも、プロジェクトへの貢献をしたいという思いもあるので、積極的に関わることで他のスタッフの仕事をヘルプしたい。でも、それがスタッフの視点からみると信頼の無さから来るマイクロマネージになってしまう。
元々、もの作りやデザインが大好きでこの会社を始めた事もあり、会社が作り上げる結果に対してはそれがデザイン的なものであれ、ビジネス的なものであれ、一切の妥協はしなくないのだ。
全ての仕事に対して、細部まで神経を注ぎ込み、出来る限り完璧に近づける。それがもの作りに一番必要な考え方である。その一方で、会社やビジネスを成長させたいと思うのであれば、信頼し、任せ、長期的な組織の成長を促す必要がある。
デザイナーからビジネスマンへの成長を目標としている自分にとっては、これはかなり過酷なジレンマである。自分の目の届く範囲の小さな組織で全てのプロジェクトに対して納得のいくまでとことん関わって行くべきなのか。
それとも優秀なスタッフに全てを任せて自分はいわゆる”経営”だけに専念するべきなのか。非常に悩ましい。それでも我慢しながら、ここ数年間は徐々にではあるが、ある程度任せるスタイルを採用。
特に今年、2013年は会社の長期的成長を目指し、出来るだけスタッフに任せ、細かなプロセスには口出しをしない様にしてきた。その成果もあり会社としてかなり安定した組織が作り上げられている。
その一方で、その結果に自分としては納得のできない事も多少あった。場合によっては、無理矢理にでも途中から自分が関わり、”救済”をしなければいけない自体も発生した。
やはり、最終的なクオリティーを重視するのであれば、もっと自分自身が積極的に関わって行くスタイルに戻すべきなのか?でもそうしたら以前の経営スタイルに後戻りしてしまい、会社が全く成長していないことになるのではないだろうか?
経営者として、任せるべきなのか、引っ張って行くべきなのか。そんな普遍的な悩みを以前の「アメリカでWeb制作会社が存在出来ない5つの理由」の記事でもご紹介した、経営者としての大先輩でもあるペンシルの覚田さんに包み隠さず相談した。
11月のある日、彼と二人きりで、サンフランシスコダウンタウンにある、さびれたアイリッシュバーで自分の悩みを切り出してみた。
「以前の自分がどんどん関わって行くスタイルに戻したいのですが、なんか”振り子”みたいに、以前の場所に戻ってしまうようで、どうしたら良いでしょうか?」と聞くと、スコッチを飲んでいた彼は静かに、「振り子ではないよ。スパイラルなんだよ。」
と言った。
A. 自分でコントロールする。B. 任せる。という経営スタイルがあったとする。どちらが正しいのか?答えは両方正しいのである。ただ、どの時期にどちらのスタイルにするかだけの話しである。
例えば、会社設立時はもちろんAで始めるだろう。そしてしばらくすると組織の成長の為にBをやってみる。でもやっぱり納得いかない点が多くてAに戻す。
でもここで理解してほしいのは、二回目のAは最初のAとは全く別の場所にあるという事だ。それはまるでスパイラルの様に横軸は同じ様に見えても,縦軸は確実に一つ上のポジションに移動している。
だから例え同じ場所に戻ってしまった様に見えても、絶対に成長はしているので、心配する事はない。これからもどんどんAとBを繰り返すべきだ。そしてそのサイクルは早ければ早い程上に上がるスピードも速くなるんだよ。
一瞬にして目の前が明るくなった気がした。
彼から受け取ったこのアドバイスは、恐らく自分が今まで学んだ事柄の中でも最も普遍的であると感じている。例えば、
A. 自分と同じ価値観の人間を集め、心地良い会社作りをするべき
B. なるべく自分と違うタイプの人間を集め、少々心地悪くても、多様性を重要視する
このどちらの方法が良いか?への答えもスパイラル。振り子ではない。心地よい会社ができたら、少し冒険してみて、コンフォートゾーンを抜け出してみる。でもそればかりが続くと、テンションが下がるので、また楽しい会社作りをしてみる。その繰り返しをしてみる事で、スパイラルの様に必ず成長をしている。
AとB、どっちも正しい。あとはそれをどんどん繰り返す事である。
覚田さん、ありがとう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
photo by Robert Parviainen
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