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海外進出を成功させる為に必要な3つのポイント
日本の方々にお会いする際に頻繁に話題に上がるのが、「海外展開を成功させる為の秘訣」である。つい先日、日本から来られたメディアの方からのインタビュー時に余談として尋ねられたり、約2週間程前に日本出張へ行った際に多くの方に聞かれたりもした。
その度に自分でも真剣に考えるようになり、それなりの結論が出たので、まとめておく事にした。
日本の企業が海外展開を成功させる為には、実に数多くのハードルを乗り越えなければならない。しかしながら、よくよく考えてみると成功のカギは最終的には下記の3つのポイントに集約されるのではないかと思われる。
ポイント1: プロダクトの品質
一つ目は単純明快、商品やサービスのクオリティである。やはり、海外展開の第一歩は、日本国内だけではなく海外の消費者に使ってもらえて、喜んでもらえるプロダクトを提供する事から始まる。
ただ、一口に「品質が良い」と言っても漠然としすぎているので、具体的なポイントを3つ。
既にある物のマネをしない
去年の初め頃、会社のスタッフと一緒に、サンフランシスコのライブハウスで行われた宇多田ヒカルのライブを見に行った。あまり大きな会場では無かったが、チケットはソールドアウト。意外にもオーディエンスの多くは、地元のアメリカ人。
宇多田はアメリカでもデビューしており、セットリスト中の多くがアメリカでリリースされている曲が中心、しかしながら、会場が一番盛り上がっていたのは、日本国内のみでリリースされた、1st, 2ndアルバム収録曲であった。歌詞も日本語のままなのに、オーディエンスは大喜び。
実は、海外リリースの曲の多くのメロディーに日本人特有の「切なさ」が無くなっていた。アメリカ向けにプロデュースされたR&B曲はこちらの消費者からすると「既にある」ものであり、宇多田以外にも多くの素晴らしいアーティストが存在している。別に宇多田である必要は無いのである。
数十年前までは、日本のプロダクトは既存の商品を上手く研究、改良し、成功したケースが多かった。しかし、大量の情報が瞬時に飛び交う今の時代、既存の商品やサービスと似たようなものをを提供しても本物と比較され勝負にならないケースが多い。
海外マーケットでの成功事例を研究し、つい、同類のプロダクトを作りがちであるが、これからは、日本人だからこそ作れるものを提供する必要がある。
市場にあった商品・サービスの提供
上記のポイントに真っ向から矛盾しそうなポイントであるが、これも非常に重要。国や住む環境が違えば、人々のニーズも随分と変わってくる。
例えば、東京の電車や地下鉄の改札では切符ではなく、SuicaやPasmoなどのプリペイド式ICカードが利用可能であるが、サンフランシスコの地下鉄は未だに紙製の切符が使われており、ここ数十年間は変わっていない。
券売機ではおつりすら出ない有様。バスの乗り換え券は、新聞紙用のペラペラの紙を運転手に見せる。恐らく公共交通機関に対する需要や生活習慣、そして人々の考え方が要因で、市場にICカードのニーズが無いと思われる。
もう一つの良い例としては、僕の友人が熱弁を振るう、こちらの記事でも分かる通り、アメリカではウォシュレットがほとんど受け入れられていない。
日本で大ヒットしていても、海外ではどうしても響かない商品やサービスがある。Web系のサービスだと、占い系、ポイント関連、アフィリエイト関連が意外と敬遠されるケースが多い。
極限までシンプルに使いやすく
恐らく日本の消費者が賢いが故に、海外ユーザから見て複雑過ぎるプロダクトが多いように思われる。特にモバイルアプリは、国内の多くのユーザーが今までのガラパゴス携帯における複雑な操作感に慣れてしまっているせいか、その多くがユーザビリティの面で改善の余地があると考えられる。
こちらのポイントに関しては、フェラーリのデザイン会社として有名な、ピニンファリーナ社の前デザイン主任で、現在は世界を舞台に活躍されている工業デザイナーの奥山清行氏が自身の著書でも、下記のように指摘されている:
“日本人が得意として来た「切り捨ての文化」がなくなり、製品が多機能化しすぎている。
日本製品の一番良かった部分は、「マニュアルを読まなくても使える」というところだったが、いつのまにか日本製品は世界中で一番使いづらいものになり、お客さんから敬遠されるようになってしまった。
「シンプルにする勇気」を取り戻さないと、これからの日本製品はますます辛い事になるかもしれない。”
商品やサービスを造り出す際は、是非削れる所は、極限まで削り、出来る限りシンプルにする勇気を持ちたい。僕自身も座右の名としているのは:
“Perfection is achieved, not when there is nothing more to add, but when there is nothing left to take away.”
「完成とは、これ以上削る事の出来ない状態である。」
ポイント2: ビジネスマンとしての経営者
実はこれが一番重要なポイントだと思う。インターネット技術の発達や会社法の改訂で、近年は少ない資本で起業する事が可能になった。
その反面、多少技術が出来る人や、アイディアがあるだけでビジネスをしようとしているケースも少なく無い。本来、経営者に向いているタイプの人は、かなりユニークであまり多くは居ないはずである。
経営者がインターネット技術を利用してビジネスをしているのではなく、ネットの技術に詳しい人が、好きな事をしながら商売をしようとしている場合に遭遇する事が多い。
一方で、長期的に成功している会社はやはり経営陣がその業種に関係なく、ビジネスの神髄を突いていると感じる。経営者として必要なのは:
お金儲けへの嗅覚
日本に行くと感じるシリコンバレーとの大きな違いは「お金儲け」に対しての姿勢。こちらの起業家や経営者の多くが何かを始める前にまず真っ先に考えるのは、それが儲かるかどうか。
そして、ヒットした場合はどのくらいのお金になるか。逆に、儲かる見込みが少ない事業に関しては、手を出さない。
経営のプロとして、貪欲なまでの執念が感じられる。その一方で、日本のスタートアップの経営者の方々が事業を始める理由として、「面白そうだから」を挙げているケースが多い。
恐らく、安易にお金儲けの話を出す事が文化的に敬遠される背景があるのかもしれない。しかし、経営者になる以上は、生きるか死ぬかの戦いになるので、お金に対する嗅覚をとことん研ぎすませる必要がある。
逆に「こいつはデキル」と思わせる方は、消費者へのメリットを最大限にしながらも、卓越した収益スキームを確立している。
リーダーシップ力
国際的な競争力のある会社を作り上げるには、海外のスタッフも積極的に取り入れ、ダイナミックな環境を作る必要がある。それに際して求められるのが経営者のリーダーシップ力。
多種多様な人種や文化的バックグランドを要する会社を引っ張って行くには、日本人だけで構成される会社とは別次元での統率力が必要とされる。
従業員の心をつかむには専門的能力に秀でた「仕事力」そして、人格、コミニュケーション能力から構成される「人間力」の両方を兼ね備えたリーダーになる必要がある。
それぞれの分野に於いて自分より優秀な人材を獲得し、最大限のパフォーマンスを発揮してもらえるような環境づくりもリーダーの仕事となる。
頭脳明晰で理論的
単純言って「頭が良い」経営者がいる会社が成功する。ただ、その頭の良さが専門的な部分だけではなく、広い視野で物事をとらえ、理論的に考える事が出来き、議論が得意で、相手の気持ちも感じ取る事の出来るようなMeta的な要素も必要になる。
現代の日本では、いわゆるトップエリート達が会社を興す事が少なくなって来ているが、学歴に関わらず会社にとっては総合的に頭の良い経営者が必要である。
ちなみに、アメリカでは、上記の頭の良さを兼ね備えた、プロの経営者が経営者職を請け負うケースも多々ある。
つい先日も、友人が自分の会社に経営者を雇い、成功報酬型で会社をエクジットさせていた。その一方で、今までの経験上、皮肉にもMBA保持者は経営に向いていないような気がする。
ポイント3: 語学/コミニュケーション力
いまさら、英語を中心とした語学力はあまり関係無いと言いたい所だが、こればかりはどうしても避けて通る事が出来ない。
世界の共通語は英語であり、どんなに優秀でも英語力に欠けている事だけが理由で世界に展開出来ないのは悔しい。やはりどう考えても語学力は重要。
それも単純に英語が出来るという事ではなく、明確に意思疎通が出来き、スムーズに会話が進んで行くレベルのコミニュケーション能力が必要とされる。
逆に考えると、特に流暢ではなくても、しっかりと相手の言っている事を理解し、自分の意志を伝えられればOKである。
基本的な語学力
とりあえず基本を抑えるだけでもかなり良い。実にアメリカで生活していると、日々使われる英語の約80%以上は日本の中学レベルの英語である事が分かるであろう。
恐らく残りの20%のうち、15%はこちらのポストで出てくるような、高校や大学でも教えていないスラング的表現である。
ちなみに、移民の多いアメリカでは、英語がネイティブでは無いケースも多く、なまりをさほど気にしていない人々も多い。
実に、先日参加したイベントで壇上でスピーチしていた方の北欧なまりに対して、観客の女性から「セクシーだわ」との声もあった。若干のなまりも個性に変えるぐらいの心構えが必要。
議論/発言力
アメリカを始めとした海外では会議の際に発言しないスタッフは無能と見なされる。日本で働いた経験のあるスタッフは間違った発言や上司への反論意見を恐れて、滅多に発言しないケースがあったりするが、逆効果である。
たとえ間違った意見でもとりあえずどんどん発言してみて、全員で議論するのがプレインストーミングの基本である。その際は誰がどのような意見を言ったかは重要ではなく、とりあえず発言する事が評価の対象となる。
また、会議中は役職や肩書きにとらわれる事無く、自由に発言する事が出来る反面、たとえ社長であっても、納得出来る説明が出来ない限りはスタッフの賛成を得る事も出来ない。相手の意見を否決する際も、なぜ良く無いかを納得してもらう必要がある。
ユーモア
コミニュケーションにおいて、意外と重要になってくるのがユーモア。日本だと仕事中に冗談を言うのは御法度な会社もあるだろうが、例えばアメリカの場合、かなり深刻な場面でもジョークを飛ばしたりする。
それにより、周りの空気を和らげ、人々の気持ちをリラックスさせる事で、良いアイディアを引き出したりする事もある。逆にジョークの一つも言えない人は、仕事もできないと思われるケースもある。
シリコンバレーで四六時中パソコンに向かっているギークと呼ばれる人々も、話してみると意外と面白い場合も多い。毎週末がパーティーで初対面の人とと話す事に慣れているのが所以であろう。
最後に
上記の「プロダクトの品質」「ビジネスマンとしての経営者」そして「語学/コミニュケーション力」で構成される3つのポイントは、三種の神器と言っても良いほど、海外展開に際して非常に重要になってくると思われる。
実は、3つ全てが揃っているケースは稀で、多くの場合、どれか一つが欠けている。その場合は、残りを補う事で、可能性が飛躍的にアップすると思われる。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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