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CES 2018で見た3つのパラダイムシフト
1月の7日からラスベガスにて開催されたCES に3年ぶりに参加した。
一般公開は9日からであるが、メディア向けのイベントが7日からあったので、今回はキーノートやメディアセッションを中心に見ることにした。
狙いとしてはそれぞれの企業が未来に向けてどのようなビジョンを持って取り組んでいるのかを知ること。
展示会だけからではわからない、包括的な視野でのテクノロジーの未来と企業の将来がクリアに見えて来る内容であった。
巨大すぎる展示会
通常、CESといえば「世界最大の家電市」とも言われ、巨大なコンベンションセンターに加え、複数のホテル会場を貸切裏、20万人以上の来客と4,000近い出展企業がひしめき合う「巨大展示会」のイメージ。
実は一番興味深いのは、展示会よりも個々の企業によるメディア向けのセッションである。
展示場で展示してあるプロダクトは「近い将来に販売される商品」か、「こんなこともできますよ」的なコンセプトモデルである。
その一方で、メディア関係者向けセッションで発表されるのは、それぞれの企業が掲げている将来へのビジョンと、それを具現化するためのアクションアイディアであるからだ。
未来を語るメディア向けセッションの数々
それも多くの場合、今回のTOYOTAの豊田章男社長に代表される企業のトップが情熱を持って未来を語る。そこから伝わってくる熱量が非常に心を揺さぶるので、見てみて非常にワクワクする。それに加え、家電、自動車、サプライヤー、ネット系など、異なる業界をまたいで、それぞれのメディアセッションをみて見ると、世界全体の未来が包括的に見えてくる。
ちなみに、今回の1/7-8のCESでメディアセッションおよびキーノートで発表された企業は下記の通り
- Dynamics
- Byton
- LG
- Bosch
- Monster
- Toyota
- BrainCo
- Panasonic
- Continental Automotive
- MobileHelp
- Hisense
- Ripple
- Valeo
- ZF
- Royal
- TCL
- Nucalm
- Samsung
- Qualcomm
- Hyundai
- Faurecia
- Kia
- Sony
- Intel
はっきりと見えてきたパラダイムシフト
展示会での様子を中心にCES速報的な記事は他にもたくさんあるので、今回は、メディア向け未来展望セッションを見た感想を中心に、これからの世の中にはどのような変化が訪れてくるのかを、自分なりに考察してみた。
1. 裏方、下請けが主役の時代に
上記の企業名リストをみてみても、一般消費者に馴染みのある名前が意外と少ない。
一方で、パーツのサプライヤーや下請け業者といった「裏方」的な企業の方が多い。ここで注目すべきは、新しいテクノロジーやイノベーションを作り出す主導権が、はっきりと消費者ブランドから、いわゆるBtoBと呼ばれる裏方の企業に移ってきているということ。
例えば自動車業界であれば、ValeoやZF、Boschといったサプライヤーが次世代のモビリティ体験を生み出すべく、自動運転、コネクテッド、パーソナル、デジタルをキーワードに、様々なコンセプトを打ち出してきている。場合によっては自動車の車体のプロトタイプも作っているケースもあった。
家電系もまた然りで、テレビのブランドのTCLの成功の裏にはスマートTVプラットフォームのRokuが紹介され、サムスンはこれまでに投資、買収してきた複数のBtoB系スタートアップが提供するハードウェアやインフラをつなぎ合わせて生み出されるサービスを紹介。
半導体業界においての最強のサプライヤーを誇るIntelに至っては、そのキーノートのステージにて、データカンパニーへの変換、そしてデータとAI技術を活用することで実現可能なプロダクトのデモの一環としてAIロボットとのジャムセッションや、自動運転ヘリコプターやGPS無しのドローン100台をシアター内に飛ばすパフォーマンスを見せることで、データビジネスの重要性と底力を見せた。
これは企業の立場になって考えるてみると、例えこれまでBtoBや下請け的な業種だったとしても、これからは最新テクノロジートレンドや、消費者の理解が非常に重要になってくるということ。
そして、今まではOEM業者からの発注内容に合わせて要件定義をしてきたとしても、今後は自らが企画し、新しいサービスを自ら考えることで、提供先の企業の新たなビジネスモデルを創造するぐらいのクリエイティビティが必要となってくるだろう。
これは大きなシフトで、これまで何十年間も常識とされいた産業構造に大きな変化がすでに始まっているということ。おそらく今後は発注先の「指示待ち」をしてる企業はどんどん置いていかれることになるだろう。
逆に新しいテクノロジーや体験を元に、コンセプトとプロトタイプをどんどん作れるサプライヤーには、OEM業者が頭を下げて「利用させていただく」時代も来るのかもしれない。
2. プラットフォーム至上主義
そして、その裏方の最たるものがプラットフォームを提供する企業であろう。今回特に目立ったのはAmazonとGoogle、そしてMicrosoftである. 彼らが提供するデータを元にしたサービスプラットフォームは、TOYOTAをはじめ、本当に多くのセッションにて紹介されていた。
Amazon Alexa, Google Assistant, Microsoft Cortanaといったサービスは特に家電やモビリティ業界との親和性が非常に高く、音声認識をインターフェースとしたインテリジェントシステムを提供するためには無くてはならない存在にもなってきているようだ。
特に5Gの実用化が見えてきて、よりリアルタイムコネクトでできることがどんどん増えて来る時代に入り、プラットフォームの重要性はこれまでにないくらいに高まるだろう。加えて、”ハードウェア > ソフトウェア > データ > 分析 > パーソナリゼーション” の流れがプロダクトの大きな価値となっていくので、プラットフォームが本当の意味で全てのコアになっていく。
以前に「これからの企業に不可欠な三種の神器とは」でも紹介したように、GoogleやAmazonなどの企業の強みは今までに蓄積してきた膨大なデータを元にAIを活用したプラットフォームをしっかりと作り上げているところ。そしてより生身のユーザーに違和感のないシステムが提供できていることであろう。
これが可能なのは、もちろん上記の企業が長い年月をかけて多大なる量のユーザーとの接点をじっくりと構築し、データを収集し、それを解析するシステムを構築をしてきた事実。
そして、もっともユーザー体験として正しいカタチでのアウトプットを行い、そして常にシステムがユーザーを学び続けるというプラットフォームをオープンに提供できていることで、究極のプラットフォーム業者になった。
おそらく今後は上記のような企業は電気や水道のような最も根本的なインフラとして多くの産業にもどんどん活用されることになるであろうし、今から似たようなサービスを作ろうとしてもユーザー数やデータ量、そしてシステムの複雑さを考えてみると現実的には全く太刀打ちができない状態まできていると思われる。
逆に考えると、今後はGoogleやAmazonが提供するようなプラットフォームと連動していないサービスを探すのが難しいぐらいの時代になるだろう。
一方で、サムソンだけは”Bixby”と呼ばれる独自のAIベースの音声インテリジェントシステムを開発し、全ての消費者向けプロダクトへの実装を試みている。これは彼らが掲げる”Intelligent of Things” (全ての製品をAIにつなぐ) 構想の中核を担う役割であるが、以前に日本企業が試みて失敗した「全て自前主義」の二の舞になる可能性もある。
そして、このプラットフォーム至上主義を大きく逆手に取ったのが、通信技術と半導体メーカーのクアルコム。彼らはGoogle Assistant、Amazon Alexa、Microsoft Cortana, Alibaba AI Voice Cloud, BaiduDuerOSなどの複数のプラットフォームと繋がるスマートスピーカーを発表した。ここまでくるとGoogleやAmazonが本当にやりたいのはやはりプラットフォーム業であり、ハードウェアの提供は単なるデータ集めのための手段にしかすぎないことが理解できる。
そう考えてみると、これまで家電や自動車を中心に、ハードウェアデバイスを製造、販売していた企業はしっかりとプロダクトのサービス化を進めない限り、プラットフォーム業者のための「かませ犬」的存在に成り下がってしまう可能性すら感じた。
3. 多国籍企業から無国籍企業に
これまではその企業名を聞くと”どこ”の企業かがある程度わかったし、”日本企業”の状況とか、”韓国企業”の活躍とか、”中国系”の勢いなどの話が多く出てきていた。しかし、今年は”これって結局どこの国の企業?”という感じのところが多かった。
そして、例えそれが元々どこかの国から始まったとしても、世界中に拠点があり、異なる人種や国籍の人が働いていることからも、”多国籍企業”がどんどん増えている感じがした。それはまるで、”オールジャパン”とか”Made in Japan”という言葉が恥ずかしく思えるぐらいのレベルである。
そして実は、このような企業は全世界市場をターゲットに、それぞれの拠点にもっとも得意な役割を与え、場合によっては経営トップを含めたマネージメント層にも”外国人”を躊躇なく抜擢している。
Bytonを例に取ってみよう。実はこの企業、CESに来るまでは知らなかった。彼らは新進気鋭の自動車メーカーで、コネクテッド、EV, 自動運転、デジタルなどの次世代の車両を開発している。2019年を目標にアメリカ市場での販売を狙っているTeslaキラー。そしておそらく最終的にはそれぞれの機能をモジュール化し、他の自動車メーカーにも販売することを狙っている感じである。
この会社のメディアイベントは他のものに比べてもかなりクールで、黒を基調としたステージに客席中央のランウェイから自動運転の同社車両に乗った2名の白人男性が登場。彼らは同社CEOのCarsten BreitfeldとPresidentのDaniel Kirchertである。
その英語発音からすぐに「ヨーロッパの会社だな」と思ったのであるが、後半のグローバル拠点の紹介の際に「本社のある中国」と「巨大な北京工場」が登場した。
すぐに調べてみると、おおもとは中国の自動車系のホールディングス会社で、今回のBytonはその傘下ブランドの一つ。しかし、非常に興味深いのは、このCEOは元々BMWに20年間勤務し、i8モデルの開発にも携わった。そしてPresidentは日産の中国オペレーションの責任者であったという事実。そんな人を容赦無くヘッドハントしてきたようだ。
実に彼らは、デザインの拠点をヨーロッパに、ソフトウェア系の研究をシリコンバレーで、マスプロダクションを中国で行なっているという。実はこれは珍しくもないケースでByton以外にも、フランスの企業と中国の企業がジョイントで作った企業や、ヨーロッパ、中国、アメリカの三つの国をまたぐことで実現しているソフトウェア/ハードウェア連動がたプロダクトも多くあった。
もう一つ面白かった例としては中国のスマホメーカーのファーウェイがある。彼らはもちろん中国の企業であるが、デモの際に紹介していたプロモーションビデオやユーザーインタビューにはアジア人が一人も出てこない。
えげつないぐらいに白人ばかりである。これはおそらくグローバル市場むけに、”中国っぽさ”や”アジアっぽさ”をあえて払拭しようとしているのであろう。
「ぶっちゃけ中国で効率よく生産するけど、ブランドイメージのためにはやっぱ白人っしょ」という彼らの狙いが直球で伝わって来る。そして、「反則だなー。」と思ったのは、プロダクトのデザインをよくするためにポルシェデザインとパートナーシップを結び、カメラのクオリティーを伝えるために、ライカとタイアップまでしている。
ここまで行くと、もう「死角なし」と思わせてくれるぐらいの勢である。おそらく最近の日本企業でここまでお金と勢いを武器に攻めまくれるところがいくつ残ってるんだろうという感じもする。
グローバルに戦うには今の時代、国籍や民族のアイデンティティーにこだわるのは制限でしかない。そして、多国籍企業という表現すら時代遅れで、もう「どこの国かわかんない」ぐらいの無国籍さが一つのバロメーターになるかもしれない。
ちなみに今の時代”Made in Japan”の威厳は1mmもなくなってしまったと思ってしまうくらい、日本をバイパスした企業形態のところが非常に多かったのも残念。
これからの日本企業がするべき5つの事
今回のCESでの勢のある企業の発表を見ていると今後企業がやるべきことが明確にわかってきた。具体的には下記の5つに集約されるだろう。
1. クリエイティブ人材の獲得&育成
イケている企業は何が違うのか? ことCESのようなイベントに関していうと、おそらくクリエイティブであるということ。これは、オーディエンスに未来を感じさせる、予想させる、期待させることができるぐらいのコンセプトやマテリアルが作れるかどうか。
これを実現するためには、見ている人の想像力を掻き立てる創造力のあるスタッフがいることが不可欠である。
今の時代、デザイナーかデザイナーでないか、クリエイターであるか、クリエイターではないかなどは全く関係ない。どのような役職の人でもクリエイティブな感覚は不可欠で、特に経営陣は幅広い視野で、ワクワクすることを常に考えることができなければ未来に生き残って行くことは難しくなって来るだろう。
2. グローバルな視点と接点を持つ
特にこれは日本企業の最大の弱点であるが、言語や文化から来るグローバル性の低さより、現代のエコシステムにかなり置いていかれている感があった。上記の通り、数多くの企業が世界に複数の拠点を持ち、世界でもっとも優れているパートナー企業と縦横無尽に取引やパートナーシップを結び、経営陣にも多種多様な人材を配置している。
その一方で、多くの日本企業のその多くは社内スタッフも下請け先も多くが日本国内に止まっているケースが多い。そうなって来ると海外の企業から声がかかることもどんどん少なくなってきてしまう。
その一方で今回のTOYOTAのe-Pallet構想で見られたようなコンセプトは、やはり彼らのもつToyota Research Instituteをはじめとした、複数のグローバルなR&D拠点と、Microsoftとのジョイントベンチャー、UberやDidi, Amazonなどのテクノロジー企業とのパートナーシップの賜物であろう。
3. 未来にしっかりと投資する
これもまた日本企業の大きな弱点であるが、未来への投資額が少なすぎる。言い換えるとR&D予算が世界の他の国の企業と比べて見ても桁違いに少ない。既存のビジネスや儲かることにはお金とリソースを費やすが、将来どうなるかわからないものに関しては、あくまで「実験」としての予算感しか割り当てないケースが少なくない。
世界規模で見てみると、例えばIntelはこの5年間で半導体の会社からデータの会社に変革したし、nVidiaもチップメーカーから自動運転向けテクノロジーカンパニーに転身したことで、株価も事業的にも大きな成長を達成した。
今でこそ多くの人がAIや人工知能に関して進んでいる企業に対して羨望の眼差しを向けるが、実はその裏には水面下で数年に及ぶ多額の投資とR&Dが進められている。
サムソンの発表でも彼らはIntelligent of Things (全てがAIにつながる製品)を達成するために65,000人のデザイナーとエンジニアを採用、総額140億ドルの投じているという。これは中途半端な覚悟ではない。しかし、そのリターンは確実に望めるであろう。現在、スマホメーカーに日本企業がほとんどないのは、そこにしっかりと投資してこなかったからだろう。未来に投資するのはいつなのか?「今でしょ!」
4. ユーザーをしっかりと理解する
今後「裏方の企業」の重要性がどんどん高まるにつれ、彼らにとってユーザーを理解することが今までにないほどに重要になって来る。これまでは下請け業者やSI業者である、という理由だけでエンドユーザーの顔すら見たことがない、どんなシーンで使われているかもわからない、という声を何度か聞いたことがある。しかし、これからは自らが新しいサービスの企画を考え、提案して行く時代になって来る。
これまでの士農工商の構造がひっくり返るようなものである。BtoB業者で今後成長したいのであれば、ユーザーをしっかり理解すること。それも可能であればグローバル規模でのユーザー理解がこれまでと比べ物にならないくらい重要になって来ると思われる。
5. グローバルブランド構築を真剣にする
ユーザーを理解するとともに重要なのがブランドを構築すること。ファーフェイを代表に多くの中国企業がグローバル企業としてのブランドを作るために、アジアっぽさをあえて払拭するブランド施策を進めている。
また、サプライヤーのようないわゆる「下請け業」であってもそのブランド力は非常に重要になって来る。今回のCESではフランス系のBtoB系企業が多く発表、展示されていたが、彼らは非常に良いブランドポジションを構築し始めている感じがした。
こと日本企業になって来ると、どれだけ”from Japan”感をなくせるかが重要だろう。これ、意外とできていないケースがほとんどである。もちろん日本の良さをアピールするのは良いが、日本人のためのブランドではなく、グローバルに通用する無国籍企業としてのブランド戦略が求められるだろう。
これらのミッションを達成するべく、我々btrax (ビートラックス)では2018年も引き続き価値のあるサービスを提供したいと考えています。みなさま今年もよろしくお願いします。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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