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Uberの失敗 非デザイナー社長がリブランディングに関わるとどうなるのか
Uber。サンフランシスコで生活しているとこの会社が提供するサービスを利用したことの無い人を探す方が恐らく困難であろう。
ライドシェアを中心に最近では食べ物のデリバリーサービスであるUber EATSや実験的にレンタル子犬を届けるUber Puppyなど、卓越したUXを通じたビジネス展開に無限の可能性を感じさせる。
その事もあり、非上場でありながらも現在のUberの評価額は約6兆円を超え、フォードやFedExの時価総額よりも高くなっている。同社の6,000人の従業員の実に2/3がここ1年間で採用されたという。2011年のリリースから5年程で成長したこのモンスターユニコーンは今後も成長の勢いが止まらない。
Uberのロゴとアイコンが大幅リニューアル
今ではシェアリングエコノミーの代名詞となったこの企業が少し物議をかもしている。アメリカではほとんどのユーザーのスマホにインストールされていると思われるUberアプリのアイコン、そしてUber全体のブランドアイデンティティが突如リデザインされたのだ。
別にロゴのリデザインは珍しい事ではない。しかし、今回のリデザインに対してはオンラインニュースやソーシャルメディアを通じてかなり批判的な声も聞こえてきている。そのプロセスと実際にリニューアルされたロゴを見てみても、???と思わせる内容だと言わざるを得ない。
スマホからいきなり消えたUberのアイコン
それはある日突如として起こった。いつものようにUberを利用しようとおもったら、IPhoneからそのアイコンが見つからない。誤って削除してみたのかと思って検索してみると、確かにある。
しかしそのアイコンのデザインがあまりにも変貌しすぎていて全く気づかなかったのだ。色も違えば形も違う。なによりぜんぜん”Uber”っぽくない。
みんなの専用車両からから社会インフラへ
左が2016年1月末まで使われていた、Uberの”U”とスタイリッシュな黒とシルバーを採用した以前のアイコン。
右が今回リユーアルされた”原子”をモチーフとしたアイコン。元々はアプリ経由でリムジンや高級車をタクシー代わりを利用するサービスであり、キャッチコピーが”Everyone’s Private Driver”である事もあり、以前のロゴはエレガント性と高級感をイメージしていた。
その後、一般車両のUberX, 相乗りサービスのUberPoolを始めとして、上記のUberEATs, そして通勤用のUberCommutesなど、ユーザーのニーズに応じてサービスモデルも多角化して来ている。
新たなるサービス展開と企業的な成長もあり、今回のリブランディングにおいては、これからのUberが目指す総合的ロジック会社として、社会のインフラネットワークである事をメインのテーマとしている。
CEOのTravisによると新しいアイコンは”ユーザーを中心に、世界に広がるネットワーク”を表現しているのだそう。
会社の未来を伝えるためのリブランディング施策
この方法論はある意味正しい。企業のロゴを始めとしたCIやVIをリニューアルする際に重要なのは、その会社の事業内容やミッションなどに変化が訪れ、既存のものがふさわしくなった時、そして今後目指していく将来のビジョンを表現する事である。
そういった意味では、今回のUberは、単純なライドサービスから、総合的なロジスティクス企業への変換を世の中に宣言した。
企業価値をビジュアルに落とし込んでゆく作業、それがCIやVIといったブランディング施策となる。
将来の価値が直接企業の主な評価となるスタートアップにおいては、ブランディングも現在よりも将来の姿を元に行うのが役割となる。しかし、今回のUberにおけるリブランディングプロセスと施策内容にはいくつか疑問も残されている。
CEO自らが指揮を取ったプロセス
リブランディングに至ったストーリーを読んでみるとこれが実に面白い。今回のプロセスに関しては、UberのCEOのTravisが自ら指揮を取って行ったというのである。
最近では、Twitter, Pinterest, Airbnb, Squareなどをはじめとして、デザインバックグラウンドを持ったファウンダーがいる企業の活躍が目覚ましい。
しかし、UberのTravisは、その強烈な失敗歴では有名であるが決してデザインのバックグラウンドを持っていたわけではない。元々はエンジニア出身でハードコアな経営者ではあるが、デザインの経験はほぼ無い。
では、果たしてどのようにしてこのリデザインプロセスは進んでいったのか? そしてユーザーからの反応のコメントを紹介してみたい。
米国のテクノロジーメディア, Wiredは今回のUberのリブランディングに関して、下記の様に取り上げた:
CEOのTravis Karanickはデザイナーではない。にもかかわらず、リブランディングにおけるプロセスを他にゆだねる事は出来なかった。企業のトップが自らデザインを手がけるというとても珍しいケースで、通常はブランディングエージェンシーや、社内に専属のチームを編成するなど、デザインのエキスパート達に任せるのが一般的である。
しかし、彼は違った。ここ3年間、彼はUberのデザイン主任を始めとして10数人の社内デザイナーを執務室に集め、カーニングやカラーパレットなどのデザインの基本を学んでいた。
おそらく彼にとってはこのリブランディングプロジェクトは一つの自己表現の場だったのかもしれない。そして、まわりのスタッフには’デザインのことはよくわかんないけど、重要なのは知っている。だから良いものを作りたい’と語った。
スタートアップのファウンダーにとってみれば、会社は自分の子どもそのもの。当然思い入れも一段と強く、そのロゴにも自分の思った通りの表現を行いたいと考える。
社長のイメージを実現する為にデザイナーが必死になる
そして、今回のリデザインに関しては、やはりTravis自身の個人的な好みが大きく反映されたらしく、その背景に関して当時の様子をデザインディレクターのShalin Aminが下記の様に語っている。
社長は夢中になっていました。自分自身の中にあるとても “ユニークな” デザインの好みを具現化する為に。でも周りは困惑していたんです。例えば、”とても鮮やかなパステルカラー”などと言うものだから、本人に直接 ’もうあなたの好みを理解することは諦めました’ と伝えました。
最終的には地域ごとに異なるデザインバリエーションを採用
デザインチームは68カ国, 400都市もの場所で利用されているUberのロゴを社長の独断で決めるには無理があると気づき、それぞれの地域である程度変更可能なルールを設定した。
ユーザーから寄せられた批判的コメントの数々
リリース直後よりUberの新しいロゴやビジュアルアイデンティティに対して、ユーザーから多くのコメントが寄せされた。そして、その多くが批判的なものだった。
- Uberのアイコンが見つからない
- Uberのアイコンが消えた
- CEOの”複数のアイディアがあって全て表現したい”っていう声が聞こえてきます
- 多分彼は子どもの頃パックマンが大好きだったんだろう
- 誰でも簡単にデザイナーになれると思ってるんじゃないかな
- 新しいロゴから伝わってくるのは、”ものすごく多くのお金と周りにイエスマンがいますよ”という事
- CEOはデザインプロセスに関わるべきであるが、直接指示を出すべきではない
- CEOがデザイナーの仕事をしたんなら、今度はデザイナーにCEOをやらせてあげたらどうだろうか
- 世の中を変えるサービスと世界一のスタートアップを作り上げたんだから文句は言えない
- うちのデザイン会社ではクライアントが全てのプロセスに関わりたいと希望する場合は費用に対して+20%チャージしています。中途半端に関わられると余計に仕事がやりにくくなるので
- なんかWindowsに入っている無料アイコンを少しいじったようなデザイン
新しいロゴをリリースした翌日にデザイン主任が辞職
今回のリブランディングプロセスにおいて最も驚くべきニュースは、そのリリース直後に起った。
新しいデザインが発表されたその翌日に、Uberの”Head of Design” いわゆるデザイン主任のAndrew Crowが辞職したのだ。本人はその理由を”もっと家族と一緒に過ごす時間が欲しかったから”と語っている。
しかし不思議な事に今回のリブランディングに関しては全く語っていない。一部では今回の一連のプロセスにストレスを感じて疲れてしまったのが主な原因ではないかとの声も上がっている。
そしてUberの新デザイン主任は元電通、FlipboardのMarcos!
デザイン主任が辞職した後のUberに後任として入ったのはMarcos Weskamp. そう、彼は以前Flipboardのデザイン主任の時代にこのfreshtraxでもインタビューさせていただいた。
以前には日本に住んでいた事もあり、電通で働いたこともある。これによりUberでの彼の活躍と同社の今後の成長が期待される。
ブランディングは最終的なアウトプットよりもそのプロセスが重要
今回のストーリーから分かるのはブランディングのプロジェクトにおいては、最終的なアウトプット以上にそのプロセスが非常に重要であるということ。
ビジュアルと通じで企業価値の最大化を計る為に、経営陣とエキスパート達によるチームが編成される中で、誰に何を任せ、どこまでを仕事の範疇とするのか。そして、プロのデザイナーはビジネスに対してどのような役割と価値を提供するべきなのか。
おそらく最も重要で難易度が高いのは、会社に思入れの強い経営者が過度な口出しをしすぎない事なのかもしれない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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