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「フェムテック」現代女性の健康を支える海外注目スタートアップ事例
皆さんは「フェムテック」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
フェムテックとは、フェミニンとテクノロジーを組み合わせた造語で、不妊治療や生理など、女性の健康に関する問題をテクノロジーを使い解決する分野のことを指す。
急成長するフェムテック市場
Frost&Salivanによると、このフェムテック市場は、2025年までに500億ドル規模にまで成長する可能性があるとされている。すでに投資家も次なる成長市場として注目しており、The Gardianも、過去3年間で10億ドルの投資が集まったと報告している。
また、投資プラットフォームであるPortfoliaがフェムテック専門のファンドを立ち上げるなど、シリコンバレーを中心に急成長を遂げている。
ニッチではなく、未開拓市場
女性に関するデータを集め、AIなどの最新テクノロジーを活用し、女性が抱える問題を解決していくこのフェムテック市場は、歴史的に見てもかなり意義のある市場なのだ。男性のデータに比べ、女性のヘルスデータは圧倒的に不足していると言われている。
驚くことにアメリカでは、1993年まで女性のデータは医学的な実験の対象になっていなかった。なぜなら、実験中に女性が妊娠した場合、胎児に悪影響があるとされていたためだ。
そのため、薬や病に関するデータは、全て男性の体への影響を測る実験から得たものであり、この法律がなくなった後も医療現場では男性のデータを使う傾向にある。このような背景を考慮すると、フェムテック分野がいかに未開拓の市場であることがわかる。
Fitbitは、今年2月に、生理周期をトラックするClueアプリとのコラボレーションを発表した。これは、ヘルスケアデータ=男性の体のデータといった、偏ったデータ収集状況を正す第一歩と言えるだろう。
今回はこのように急成長を遂げているフェムテック市場で注目されるスタートアップを4社ご紹介したい。
1. 生理用品界のディスラプター:Cora
皆さんは次の画像を見て、何を思い浮かべるだろう。
写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより
写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより
実はこれら、生理用品のサブスクリプションサービスを手がけるCoraの、タンポンを入れるケースなのだ。生理用品のパッケージといったらピンクなどのコーラル系色が使われることが多いが、Coraのデザインは際立ってスタイリッシュだ。
この背景には、生理をもっとポジティブな経験に、というファウンダーMolly Haywardの思いが込められている。女性用の製品はとりあえずピンクにして売ればいい、といった業界の常識を覆した。
ケースのデザインをスタイリッシュにするのは、これまで生理用品を袖の下に隠してトイレまで運んでいた女性達が恥じることなく明るい気持ちでいられるようにするためだ。このように女性ならではの視点で考えられたデザインが共感を集めている。
Coraとは?
Coraは、2015年に誕生した、サンフランシスコ発のスタートアップだ。ナプキンやタンポンといった生理用品のサブスクリプションサービスを手がけ、昨年7月にはシリーズAとして600万ドルを調達している。
ユーザーの生理周期や経血量などに合わせ、最適な量の生理用品が送られてくる。価格は$8から$16で、3カ月ごとに生理用品が自宅まで届くシステム。上記で述べた、スタイリッシュさやデザイン性以外にも、Coraがミレニアル世代を惹きつける理由を深掘りしてみたい。
ミレニアル世代の社会貢献欲求を刺激
ファウンダーのMolly Haywardとケニアの少女たち(写真はCoraのInstagramオフィシャルアカウントより)
Coraのサブスクリプションを1カ月分購入すると、自動的にインドの少女達に1カ月分の生理用品が寄付される。インドの貧困地域では、生理用品が賄えないため、生理を迎えた少女は生理期間中、学校に行くことができない。
インドに住む少女のうち、4人に1人が生理によって学校をドロップアウトしているとの報告もある。ファウンダーのMolly Haywordは、Huffpostに対し、この問題を解決するために、Coraを立ち上げたのだと語る。
彼女がケニアで英語を教えている時、少女が生理用品を買えずに授業を休んでいる光景を見て、激しい怒りと共に、使命感を感じたという。この制度は、世界中の全ての女性が清潔で健康な生活を送ることができるようにしたいというファウンダーの思いが現れている。
毎月必ず買う必要のある生理用品で、貧困地域の少女が自立することを助けられるというCoraのコンセプトは、社会に貢献することに生きがいを感じるミレニアル世代に強く響いている。
2. 年齢に左右されない!不妊治療技術の新しい活用法:Prelude fertility
前回『シリコンバレーが注力する女性活用施策の中身とは ー時代は徹底的能力主義へ』でも紹介したように、卵子保存を福利厚生として提供する企業は、経営戦略として行っている。
なぜなら、優秀な女性が、自然な妊娠可能年齢に影響を受け、職場を去ることを防ぐことができるためだ。キャリアと出産の両立は、女性にとっては大問題だと言っても過言ではない。
つまり、企業にとっても、重要な労働力である女性の問題をどう支援するかは大きな課題だと言える。そんな問題を解決するために生まれたPrelude fertilityは、現在不妊治療で使われている技術を、妊娠ができる状態だがまだ妊娠をしたくない若い層に使い、女性の自由な選択を応援しているのだ。
Prelude fertilityとは?
体外受精の技術を提供する、2016年に創立されたこの企業。サービスの仕組みは以下の通り。(参照:ビジネスインサイダー)
- 20代後半〜30代前半で卵子、精子を冷凍、保存する
- 妊娠を希望する場合は卵子、精子を解凍し、Prelude fertilityが胎芽を作る手伝いをする
- 着床前スクリーニング(PGS)(正常な受精卵だけを移植する方法、遺伝病の有無などもチェックできる)
- Prelude fertilityは、胚芽を母親に戻す
ユニークなターゲットと料金体系
一見すると、一般的な体外受精技術を提供する企業に思えるだろう。しかしPrelude fertilityがユニークなのはそのターゲット層と料金体系にある。従来、体外受精の技術は、妊娠が難しい層に使われていた。
しかし、Prelude fertilityは、妊娠ができる状態だがまだ妊娠をしたくない若い層をターゲットにしているのだ。妊娠や出産を年齢に左右されないで、というスローガンで、女性のキャリアと出産の両立を応援する。
アメリカでは、女性が初めての子どもを出産する年齢が、年々上がり続ける傾向にある。2014年の統計では26.3歳で、2000年時の24.9歳から大きく上昇した。この傾向はさらに加速すると言われており、卵子を保存するニーズも増えると考えられる。
体外受精を検討する際、その高いコストが懸念事項にあがるが、Prelude fertilityはそこにもアプローチしている。卵子、または精子を冷凍のために採取してから、毎月199ドルを払うのだが、(最長3年間)この金額には上記のステップ4まで含まれる。
なお、ユーザーは、冷凍卵子、精子の保管料だけ払うことも可能だがその場合ステップ2−4は別途課金となる。一般的にこの工程には5万ドル以上かかるのに対し、このサービスを使うと、採取から10年後に解凍し使用する場合、毎月199ドルを払ったとしても従来の金額の半額以下になる。
Preludeのように、コストを抑えたサービスが増えれば、会社の支援がなくても私費で計画的に卵子を保存する女性も増えてくるかもしれない。
3. 妊娠を目指す人のためのウェアラブルデバイス:Ava
不妊治療のグローバル市場規模は、2022年までに20億ドルにまで成長すると見込まれている。次に紹介するAvaは、妊娠を目指す全ての人を応援するウェアラブルデバイスを販売している。また、今年の1月には同社のウェアラブルデバイスを使ったユーザーの内、1000人から出産することができたという報告を受けている。
Avaとは
排卵日を正確に予測するブレスレットを開発したAvaは2014年に創立したスイス発のスタートアップだ。今年5月にはシリーズBとして3,000万ドルを調達している。ユーザーは、就寝中にブレスレットを着けるだけで排卵日を確認することができる。
これを身につけることでユーザーは呼吸数、心拍数、睡眠の質、体温など、生殖ホルモンの増加に関連して変化する9つの生理学的パラメーターを監視し、予測することができる。一般的に妊娠可能期間は月のうち6日程度、そのうち高確率なのは3日にすぎないと言われている。実験によると、平均で妊娠可能期間を5.3日予測し、その正確さは89%だった。料金体系は、ブレスレットが249ドルで、毎月のアプリ使用料が5ドルとなっている。
妊活をストレスフリーに
体のデータを記録するアプリはフェムテックの中でも競争が激しい分野だ。例えば、月経周期を記録するアプリであるClueやNatural Cyclesなどが挙げられる。
Avaの特徴を同社CEOはこう話す。「現在、妊活では、排卵検査薬の使用や毎日の基礎体温の測定など、日々生活に負担をかける方法が用いられています。Avaは、そんな女性の生活を少しでも楽にするために生まれ、ハードウェアとテクノロジーを活用することで女性が抱える問題を解決したいと思っています。」
従来の方法に比べ、Avaは、就寝中にブレスレットをつけるという簡単な方法で正確なデータをコンスタントに取ることができる。日本国内でも不妊治療を行う人は年々増え続けているため、カップルの負担を減らし、ストレスフリーな妊活を応援するAvaは、日本でも需要があるのではないだろうか。
4. データ活用でより自然な避妊法を実現:Natural Cycles
最後に紹介したいのは、月経周期、毎日の基礎体温をAIで分析し、避妊が必要かどうかを教えてくれるアプリ、Natural Cyclesだ。一見するとただの月経周期を記録するアプリだが、これは、アメリカの行政機関であるFDA(食品医薬品局)によって正式に避妊具として認められたアプリなのだ。
Natural Cyclesとは?
2013年にスウェーデンで設立された同社は、昨年シリーズBとして3000億円を調達した。使用方法は以下の通り。朝一番に体温を測り、アプリに入力する。数週間繰り返すと体のサイクルをアプリが分析し、避妊が必要な時はRed Day, 必要ない時はGreen dayとして表示される。
年間のアプリ使用料は$79.99で付属の小数点2位まで出る基礎体温計($28)がつく。毎月の支払いの場合は月に$9.99で、この場合は基礎体温計が付かないため、ユーザーが自分で用意する必要がある。基礎体温計は、小数点2位まで出るようになっていて、アプリを使うためにはこのタイプの体温計が必要になる。
より自然に、安全な避妊を応援する
避妊の正確さについて、同社は以下のデータを発表している。22,785人の女性(平均年齢29歳)の、224,563通りの生理サイクルを研究しており、体温を完璧に測りアプリを利用すると99パーセントの確実性が見込まれる。なお、Natural Cyclesを使うと、一般的には避妊の確率は93%と言われているので、いかに効果的かがわかる。
避妊用ピルが普及している欧米では、「余分な化学製品を体に入れたくない」と思う自然なライフスタイルを求める若者が一定数おり、その層に受け入れられているようだ。その一方で、懐疑派も多い。
ストックホルムの病院では、2017年の9月から12月の間の中絶希望者668人のうち37人はこのアプリを使っていたと報告されている。同社CEOは「Natural Cyclesは全員にとって最適な避妊方法ではなく、より自然な方法を好むユーザーに使ってもらいたい」と述べている。
Forbesは、2015年から2018年にかけて100億ドル以上の投資を集めたこのフェムテック市場は、グローバルヘルス市場の次なるディスラプター(市場を混乱させるほど、画期的なビジネスを生み出す企業のこと)になると予測している。世界人口の半分の、およそ35億人がターゲットであるこのフェムテック市場。
女性活用を戦略として捉える企業が増える中、女性社員に働きやすい環境を与えられている企業はどれだけいるのだろうか?
冒頭でも述べたようにキャリアと出産の両立は、女性にとってはシビアな問題だ。まだまだ働きたい、と思っている有望な女性社員達がやむなく会社を去ってしまう状況をそのままにするのではなく、彼女達が抱えている問題に目を向け、サポートすることが大切という姿勢が大事になってくるのではないか。
だからこそ、今回ご紹介したようなスタートアップの躍進が世界の女性達の健康を支え、ゆくゆくは企業の成長にもつながるのかもしれない。
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