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アテンション・エコノミーの時代に求められるUXデザインとは
まずは下記のインフォグラフィックをご覧ください。100年の間にトップの座に君臨する企業が大きく変わっているのがわかるかと思います。
1917年の頃は、鋼鉄や石油など「モノ」に価値がある企業がトップにその座を置いていました。それに比べて、その100年後の2017年はと言うと、トップにいる企業は殆どがFacebookやGoogleなど、モノではなく情報を提供しているIT企業です。
この事実を踏まえると、過去100年間でモノから人のアテンション(関心)に力が働いているということでしょう。石油を例に挙げると、供給に対して資源が少ない場合(またはその資源の確保が困難な場合)石油の価値が高くなり、ガソリンや航空券の値段も高くなります。
しかし一方で情報を提供するIT企業の場合、情報が有り余る社会の中でその企業の価値を上げる資源とは何でしょうか?それは、私たちのアテンションです。
そして、昨今このアテンションを取り巻く社会「アテンション・エコノミー」がIT企業の中で台頭し初めているのです。今回はその概念やインパクト、そしてアテンション・エコノミーの時代に求められるUXデザインとは何か、事例を交えながらご説明します。
アテンション・エコノミーとは
アテンション・エコノミーとは一説によると、アメリカの経営学者ハーバート・サイモン氏によって提唱され始めたようです。
「情報が有り余る社会で不足する資源とは一体何なのか。それは人々のアテンションである。
しかし、情報が豊かなものであればあるほどアテンションの度合いが低下するため、膨大な情報量の中からいかに人々のアテンションを集めるかが大切である」
それでは、人々のアテンションを集めるためにデザインされたテクノロジーはどんなものが挙げられるか見てみましょう。
事例1:Facebook
皆さんも馴染みがあるFacebookですが、普段メールの受信箱に下記のようなメッセージが届くことがあるかと思います。件名には『〇〇さんが写真にあなたをタグ付けしました』とあり、メールの本文にはその写真をすぐ見れるようにリンクボタンが設置されています。
このようなメールが届くと、自分がどんな写真にタグ付けされたのかが気になり、無意識についFacebookへのボタンを押してしまうかと思います。そしてFacebookページに飛んだ後に他の写真を見たり、タイムライン上でフィードを確認したりと、気がついたら多くの時間を費やしてしまっていた・・・なんて経験はないでしょうか?
このように、Facebookは他の企業が欲しがる私たちのアテンションを掴む力があります。昨今、多くの企業の成功指数が「どれだけ多くのアクティブユーザーを長時間繋ぎとめるか」で計られてる中、Facebookはデザインを通じて私たちのアテンションを上手に引き寄せているのです。
事例2:LinkedIn
Facebookに限らず他のSNSでもアテンション・エコノミーは活用されています。ビジネス特化型SNSのLinkedIn(リンクトイン)を例に挙げましょう。LinkedInは就職や転職、仕事上のコミュニケーションなどを通じて人と仕事を繋げるプラットフォームを提供しています。そのため、友人達との写真を載せるFacebookとは異なり、通知内容はいたってシンプルです。
ユーザーがLinkedInに求める通知は、「〇〇企業から面接のリクエストが来ています」といったビジネスライクな内容でしょう。しかしそれだけではユーザーのアテンションを十分に集めることはできないので、「今日は知り合いの〇〇企業勤続2年目の記念日です!一緒にお祝いしましょう」というような、少し違和感のある通知もしばしばあります。
企業がいかに私たちのアテンションを集めることに注力しているのかが窺える内容かと思います。
事例3:Snapchat
もう一つユーザーを逃さないために画期的なデザインをしている事例として、Snapchat(スナップチャット)をご紹介します。Snapchatには‘Communication Streaks’と呼ばれる、友人同士が何日連続でスナップチャットを利用して会話したかを数値化する機能があります。
こうすることで、友人同士がまるで特別な関係を築いているかのような感覚になり、その関係を示す記録を途切れさせたくないがゆえに特に理由がなくてもメッセージを送る傾向にあるようです。
ここで考えなければいけないのは、友情を深めることが目的だとしたら、実際に友人に会うのではなくアプリ上だけでコミュニケーションを取るのが果たして本人の意思になるのか、それともSnapchatのデザインに自然とコントロールされているだけなのか。
今後私たちはテクノロジーに費やす時間をどれだけ自分たちでコントロールできるのかを考えるべきなのかもしれません。
テクノロジーへの依存がアテンション・エコノミーを加速
現代のミレニアル世代は一昔前と違って、実際に身体を動かすことよりもゲームやスマートフォンといったテクノロジーに依存しがちで、鬱傾向にあるとも言われています。
特にスマートフォンへの依存に関しては以前からメディアでも取り上げられており、その中でも最近よく聞くのはそのデザインがスロットマシンと同様の依存性効果を持つという内容です。
スロットマシンの依存性については「見返りのランダム化」がもたらす効果に着目した研究があります。この研究はスキナー箱とも呼ばれていて、箱の中にネズミと押すと餌がランダムに分配されるボタンを入れ、ネズミがボタンをどう押すのか確認します。ネズミがこのボタンを押すたびに出てくる餌の量が同じだった場合、ネズミは必要に応じてボタンを押します。
しかし、餌の量をランダム化(微量にしたり大量にしたり調節する)した場合、ネズミはもう食べる必要がないのにボタンを押し続ける行為に至った、という研究結果が出ています。
つまり、スロットマシンのデザインはスキナー箱の条件付けと同じ効果を果たしているので、多くの人が依存傾向にあるのです。そしてスマートフォンも同様の条件付けのデザインがほどこされているのです。
特に結果のランダム化という面では、GmailやFacebook、その他アプリに導入されているPull-to-Refresh機能(引っ張って更新する機能)がまさにその役割を果たしています。メールやアプリを更新する度に脳がランダム化された見返りを求めて「次は何が表示されるのか」と感じ、同じ行動を続ける行為に走ります。
その結果、たとえ通知が来なくても自然とスマートフォンに手が伸びてしまい、新しいメールが来ていないかを確認したくなってしまうのです。
テクノロジーの普及と共に欲しい情報がいとも簡単に手に入るような時代になっています。しかし、その一方で企業はいかにユーザーの時間やアテンションを得るか、躍起になっているようにも思えます。
上記に挙げた事例のようなデザインが多くなればなるほど、ユーザーはテクノロジーにコントロールされることになるので、私たち自身もアテンション・エコノミーについて深い知識を得るべきでしょう。
アテンションエコノミーの台頭によって見えてきた問題
それでは、アテンションエコノミーが広がっていくとどのような問題が起きるのでしょうか。
- 日々の生活、仕事中における注意散漫
- 思考時間を奪う、イノベーション創出やクリエイティビティへの妨げ
- 依存や鬱に繋がる可能性
- 孤立感
- 個人の意思で何かを選択するHuman willの侵害
人々の意思を尊重したUXデザイン事例
テクノロジーは素晴らしいものですが、本来人々の生活をより良くするために生み出されたものなので、人々の生活をコントロールするようなことがあってはいけません。それでは人の意思を尊重したデザインとはどんなものがあるでしょうか。事例を2つご紹介します。
事例1:iOS
先日iPhoneを新しいiOSに更新したところ、運転中における新着通知の有無を問われ、これこそユーザーの意思を尊重したデザインだと感じました。
なぜなら、私は普段運転中はiPhoneをGPSとして使っているため、今まで電話やテキストが来るたびに画面の1/4がその通知で覆われ、つい通知に促されるままに電話に出たりテキストを読んでしまっていたからです。
近年ドライバー・ディストラクションが大問題となっている中、新しいiOSのデザインは素晴らしいソリューションです。自動で運転していることを感知し、運転中は通知が来ない設定に。また、設定次第では「運転中なのであとで返信します」と自動で返信することも可能です。
事例2:Hipmunk
もう一つの事例にトラベルサイトのHipmunkを挙げたいと思います。Hipmunkでは他のフライト検索サイトとは異なり、「価格」と「時間」の上にもう一つ「Agony」フィルターを設けています。
本来Agonyとは肉体的・精神的に感じる激しい苦痛を指しますが、Hipmunkでは「価格、乗り換え数、飛行時間を組み合わせたもの」 であると定義しています。
また、検索結果の画面では旅程が一目でわかるようなデザインにしています。確かに、ユーザーが探しているのは「価格か時間」なのではなく「価格と時間」なので、ユーザー観点なデザイン且つとても理にかなっています。
まとめ
アテンション・エコノミーは新しい概念ではありません。しかし、ネガティブなニュアンスを持つ一方でテクノロジーと人間の関係性を見つめ直すきっかけとなり、昨今バズワードとして注目されています。
そして、欲しい情報がいとも簡単にインターネットで手に入る時代、多くの企業が人のアテンションを得ようと躍起になっています。
一時的なユーザー獲得であればその方法でも良いかもしれませんが、やはり人の意思を尊重したUXデザインこそが良いサービスとして存続できるのではないでしょうか。
再度となりますが、今後はアテンションを得るためではなくユーザーが本当に求めていることを実現させるためのUXデザインを設計していく必要があるでしょう。
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