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ブランドパーソナリティとは?米国企業の注目活用事例2選
ユーザーや顧客との接点を大切にするためにブランディングを強化する企業はますます増えている。顧客が商品1つを選ぶにしても機能面だけを見て決めることは今ではほとんどなく、商品そのものやそれを売り出している企業が持つイメージも顧客の購買意欲に大きく影響している。
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そのブランド力を支える上で、顧客に与えるブランドイメージの根幹となる「ブランドパーソナリティ」はブランディングの中でも重要項目の1つとなっている。実際に多くの企業のブランドガイドラインではそれが明確に記載されている。今回はそのブランドパーソナリティの意味を確認し、筆者が実際にインタビューを行ったアメリカの大手地銀であるCapital Oneと日本に進出したばかりのQuoraという対照的な2社の事例を紹介する。
ブランドパーソナリティとは
ブランドパーソナリティは、パーソナリティ(性格)が含まれているように、企業の人格的な「個性」を表す。優れたブランドを持つ企業こそ印象に強く残る、統一されたブランドイメージを顧客に常に発信している。またその顧客もその商品を買うことでブランドイメージを自分のイメージに繋げ、自分としての個性を表現するものになる。
実際に、エッジの効いたブランドとして名が挙がるオートバイメーカーのHarley-Davidsonのパーソナリティは「荒削りで無骨な男らしさ」。そのバイクに跨がることで「ライダーの男らしさに磨きをかける」というイメージを浸透させた。そのブランドはアメリカ中西部から始まり、次第に世界中で大人気となった。今でもブランドロゴのタトゥーをいれるライダーもいるほど一定層の強い支持者がいる。
「ハーレー好き」のライダーがコミュニティを形成し、お揃いの決まった格好をしてツーリングをする姿は、企業がブランドパーソナリティを巧みに顧客の感情に浸透させていった良い例だ。
そのほかにもユニリーバが持つ製品ブランドの1つであるDoveは「健全さ」「道義的」「純真さ、清潔さ」を商品パッケージから広告、SNS上でのメッセージまで巧みに表現。同社の男性用化粧品ブランドのAXEでは逆に「誘惑」「男らしさ」「常識にとらわれない自由さ」を表し、タバコブランドのMalboroも「男らしさ」に「自由さ」さらに「冒険的」といったパーソナリティが付随している。ここに挙げたブランドは読者の多くが目にしたことあるブランドだと思うが、このような特定のイメージはみなさんの多くが持つ共通イメージとしてあるはずだ。
CMには多くのクレームが入るというAXEだが、ユーザーの「モテたい」というシンプルなニーズにマッチしたブランド・パーソナリティを上手く表現している
このようにブランドがパーソナリティを持ち自己表現を行うことで、ユーザーとの関係性に強い影響を与え、顧客に対するブランドの立ち位置を明確に表現するのである。人で考えてみると、どんな振る舞いをするかでその人の性格が分かるように、ブランドとしての活動指針の軸となる性格を表現することがブランドパーソナリティの一番の役目である。
各企業は顧客との様々なタッチポイントにおいて、このようなパーソナリティを基に伝えるメッセージングにも統一性を見せていく。今回はその企業の数あるタッチポイントの1つに焦点を当てて、そこから考えるブランドパーソナリティを見ていく。
従来の銀行のイメージを改革するCapital Oneと日本進出で話題のスタートアップQuoraの事例を紹介
ブランドパーソナリティの実例を紹介するべく、今回Capital OneとQuoraの2社にインタビューを実施。彼らは先述したように堅い業界イメージのある銀行と人気スタートアップという、一見対照的な企業だが、どちらもユニークな形で自社のブランドパーソナリティの表現を巧みに行っている。そんな彼らが掲げるパーソナリティとその表現方法について話を聞いた。
1. Capital One
バージニア州に本社を置く大手地銀のCapital Oneは、堅いイメージが強い傾向にある金融界でも、クリエイティブな環境と新テクノロジーを積極的に駆使したイノベーションが特徴的な銀行である。実際にサンフランシスコには彼らのアクセラレーター・インキュベーター施設として最新テクノロジー開発を行うCapital One Labsが存在。彼らの取り組みは他の歴史ある銀行とは一味違う。
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そんな彼らがブランドガイドラインで掲げているパーソナリティは以下の4つである。
- Bold Challenger:勇敢なチャレンジャー
イノベーティブリーダーとして良い変化をもたらすために業界に挑戦する
- Straightforward:率直
真正で、信用・信頼できる存在に
- Advocate:顧客の代弁者
自社だけでなく、常に顧客の興味を探し出す。未来に楽観的になり、顧客の成功をサポートする
- Engaging:魅力的
示唆に富むユーモア、ウインク、そして笑顔を持った親しみやすさを
1988年創業のCapital Oneは、創業者が未だに現CEOとして活躍しており、業界内でも非常に若い銀行である。その若さを生かし、率直さや親しみやすさといった従来金融界のキーワード以外にも、Bold Challengerといったイノベーション要素を取り入れ、業界の積極的な改革者という立場を貫いている。そんな彼らの独特なパーソナリティを体現した施策を2つ紹介しよう。
Capital One Cafe
Capital One CafeはCapital One銀行の支店兼カフェとなる施設で、口座を持っていない一般の人向けにもオープンされている。普通にカフェとして利用する客や、外でのミーティングを行う場所として、またコワーキングスペースのように作業をしに訪れる利用客も多く見かける。
クラスルームやワークショップルームも用意しており、定期的に一般向けにファイナンシャルプランの立て方や子供向けに賢いお金の使い方を教える講座等も行っている。
Capital One Cafeの特徴の1つは「アンバサダー」と呼ばれる案内・サポートスタッフの存在である。従来の銀行だとスタッフは窓口にいるが、アンバサダーはアパレル店員のように店内を自由に歩いている。丁寧かつ押しの強くない接客で利用客に圧迫感を与えないようにすることで、ユーザーに銀行との心理的な距離を縮めてもらうのが狙いだ。
彼らは「企業の顔」として、接客から無料のクレジットスコア分析まで幅広くサポートを行う。”Straightforward”、”Advocate”、”Engaging”といったパーソナリティは顧客との人間的な接点で表現できると考え、体験型のブランディングを重視しているのだという。目指すものは新規顧客の獲得から既存顧客のサービス体験向上まで、と一見他の銀行と変わらない目的ではあるが、その方法は独特である。
「お金というのは非常に個人的なもので、それを話しやすいと思わせることはCapital One Cafeが提供できる体験価値の1つです」とアンバサダーの1人は語る。顧客に「個別の体験」を提供することを心がけ、それまで堅いイメージのある業界イメージを払拭しようとする心意気が表現されている。パーソナリティにある人間的な特徴をユニークに表現した事例だ。
従来の”お堅い金融業界”の殻を破り、銀行とカフェを融合させたCapital One Cafeは顧客への提供価値を上げるために単純に面白い試みを行っているのではなく、パーソナリティが背景に強く存在しているのである。このブランディング施策は着実にユーザーniCapital Oneのユニークかつフレンドリーな印象を与えている。
積極的なアプリ開発
2008年の金融危機がもたらした大きな影響の1つとして、アメリカの多くのミレニアル世代がこれまでの伝統的な銀行への信頼を失っていると言われている。この世代は古く堅牢なイメージのある銀行よりも、テクノロジーでお金の管理を求める傾向が強い。実際に最近ではオンラインバンキングが主流になりつつあるほか、DigitやMint、Chimeといった、スタートアップによる口座管理・貯金管理アプリを通じて自身の預貯金管理を行うことが人気になっている。
従来の銀行に逆風が吹く中でCapital Oneは社内で積極的にスタートアップのように新規アプリ開発を行っている。実際にカフェスペースとなる建物1階以外の階では”Capital One Labs”として常に自社アプリやAIの開発場所となっている。実際にインタビューで訪れた時も、開発段階中のクレジットスコア分析を行う「瞑想アプリ」を見せてもらった。従来の銀行としての立場を保ちながら積極的にテクノロジーをサービスに落とし込み顧客に提供している。
Capital One Labs(写真はOffice Snapshotより引用)
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もともとアンバサダーの立ち位置も従来の対面での手続き以外に、オンラインバンキングのサポートやこういった新しいテクノロジーサービスを紹介するという意味でも活躍している。顧客とのタッチポイントと近い場所で開発を行い、彼らのニーズに応えるサービスを提供しようとする姿勢が伺える。
Capital Oneがここまでテクノロジーに積極的になれるのは先述した企業の若さもあるが、社員にもその秘訣がある。Vice PresidentはPixar出身、他にもApple出身の社員もいるなどテクノロジー企業での経験豊富なスタッフが在籍しており、テクノロジー好きな人たちが集まるカルチャーができている。テクノロジーを積極的にバンキングに持ち込みたいという社員の気持ちが業界でチャレンジャー精神を持ちたいCapital Oneのパーソナリティを支えているのだ。
2. Quora
先日の記事でも紹介したナレッジ共有プラットフォームを提供するQuoraは著しい成長を遂げるスタートアップだが、彼らもまたブランディングに積極的に取り組んでいる。今回カリフォルニア州マウンテンビューにあるQuora本社にて、海外展開担当のトップであるシュレーヤス・セーシャサイさん、そして日本語コミュニティー担当のトップのフリーデンバーグ・桃紅さんに話を聞いた。
彼らのユーザーとのタッチポイントは何と言ってもユーザー同士が質問を行うプラットフォーム。「世界中の知識を共有し、深める」ことをミッションに掲げるQuoraも既存のQ&Aサービスとの差別化を図るために以下の2つをパーソナリティとして掲げている。
- クオリティ重視
- 丁寧さ
これらのパーソナリティーが彼らのサービスにおいてどう体現されているのか見ていこう。
↑QuoraのHead of Internationalization シュレーヤスさんとHead of Community Japanese フリーデンバーグ・桃紅さん
クオリティを左右する“実名登録”
Quoraのブランドを語る上で一番重要なのはクオリティ重視の姿勢である。日本進出に伴い、Quoraについて取り上げるメディアは多くあるが、その内容について共通しているのが「質の高い回答が得られること」である。
そのためにQuoraが実施しているのは、他のQ&Aサイトとの差別化として同社が強く推している「実名登録」だ。これは本名の登録だけでなく、プロフィール画面で自身の経歴や背景の記入も求めている。そうすることで、記入者は自分の回答に責任を持ち、クオリティの担保につながるという仕組みだ。
また本名の使用は「丁寧さ」も体現している。相手を傷つけるような発言防止にも役立つため、結果的に様々なユーザーがプレットフォーム上でポジティブな体験を得られるようになっている。そうすることで、Quoraのポリシーでもある「他人へのリスペクト」を体現することができるのだ。他人の心無い回答を撲滅し、害となる情報やユーザーを排除した上で、本当のユーザーが求めている「正確で質の高い情報」を得られるようにしている。
この実名の使用により、政治家のバラク・オバマやヒラリー・クリントン、また業界を変えてスタートアップのCEOやその他各業界の著名な専門家まで回答を行っていることがわかる。このように著名な人物が回答を行っていることを可視化することで、ますますクオリティ重視を体現していることを伝えることができる。
クオリティ担保のための機能
Quoraではクオリティ担保のためにさまざまな機能が用意されている。その1つが「高評価システム」だ。これは、ある回答について正しいと思えば、それに高評価もしくは同意見(”Vote”)という形で投票することができるというもの。著名な専門家からそれが集まるほど信ぴょう性の高い情報ということになるわけだ。
人によって同じ質問でも違う回答があること、そして多くのユーザーがそういった様々な視点からの回答を期待することは事実である。1つの質問に対し1つの回答を選ぶのではなく信ぴょう性の高い回答を複数並べることで、ユーザーは「多くの考え方を学ぶ」ことが可能になる。同意見システムはそれを実現するために様々なクオリティの高い回答を残すことにおいて重要なシステムになっている。それに加え機械学習を使って情報の正しさや整合性も常に確認している。
また表示される質問のパーソナライズ化を行っているのもクオリティ重視を体現したポイントの1つ。ユーザーの居住地や興味を事前に把握することで、それぞれのユーザーに個別のフィードを表示するようにしている。
ちなみにこういったハイクオリティな情報を共有する姿勢は社内でも行われている。Quora本社では社員同士が集まって情報共有ができるように月曜日と金曜日のランチタイム後にカジュアルな全社ミーティングを行い、CEOにも直接質問ができるようになっている。企業としてのパーソナリティの一貫性が見えるストーリーだ。
遊び心の過ぎないデザイン
「丁寧さ」はプラットフォームのデザインからも見て取れる。信頼性の高い情報を共有することを一貫するために、あまり遊び心の過ぎないようなデザインや構成が施され、ブランドのトーンを統一させている。実際にこのプラットフォームを使うユーザー同士のインタラクションは見知らぬ人同士で行われるため、このようなイメージをビジュアルから演出していくことは実は大事なのだ。
まとめ
ブランドパーソナリティはこの2つの例のようにブランドと顧客の間に立つ重要な役割を担っている。逆にこのブランドパーソナリティが確立されてされていないと同じ取り組みを行なっていても顧客が受け取るイメージはぞれぞれ変わってきてしまう。
例えばCapital Oneが同じように実直で信頼できるような存在になろうとしても、フレンドリーさの代わりに真面目さをパーソナリティにした場合、顧客に与える印象は一気に変わる。最新テクノロジーを顧客に使いやすい形で提供する優しいイメージの企業になるか、それともそういったテクノロジーの最新性を常に追い求める貪欲なイメージを持つ企業になるか。どちらが正しいという話ではなく、企業が顧客に受け取ってもらいたいパーソナリティはこれだ、という意思表示と行動の軸になるのだ。
ブランドを構築する要素はパーソナリティに限らず他にも存在するし、ブランドガイドラインにはパーソナリティに触れない企業もある。しかし、このブランドパーソナリティはブランディングを考え直す企業にとってぜひ考慮すべき要素の1つだろう。
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