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日本がイノベーションを起こすために捨てるべき3つのカルチャーとは
ここ数ヶ月の間サンフランシスコで生活してみると、改めて「日本は便利で安全な国」ということを実感した。小型でも静かでしっかりと効くエアコン、電車の正確さと静かさ、安くてもしっかりした商品、治安がいいことなどの素晴らしさは、日本から出た時に本当の意味で実感できるものだ。
これらは、製品や機能の質を高める、「持続的イノベーション」、商品の生産効率をあげ、より少ないリソースでより多くの製品を生産できるようになる「効率的イノベーション」の2つのイノベーションを日本が起こし続けた賜物だと感じる。
しかし、これらのイノベーションは製品の代替わりが中心となったり工場の自動化や海外移転が進んでしまうため、市場の成長が止まり雇用は減少していく。これは今の日本で深刻化している問題だ。
この状況を打破するために多くの日本企業が注目しているのが、人々に新しい価値観を与え、新しい市場を開拓し、多くの需要を生み出す「破壊的イノベーション」である。
この記事で使われるイノベーションという言葉はこの「破壊的イノベーション」に焦点を当てる。
破壊的イノベーションとは
左の写真は2005年、右の写真は2013年にローマ法王が決定した時の写真を収めたものだ。初代iphoneが発売されたのは2007年、そこからスマートフォンが普及したことで、このように人々の暮らしは激変している。
このように、を破壊的イノベーションは既存の人々の生活や価値観を変えてそれが「当たり前」になるほどのインパクトを与えるものである。
この破壊的イノベーションを起こすうえで注目されているのがデザイン思考だ。デザイン思考は「技術」ではなく「人」に焦点を当て、ユーザー中心的に考え、人同士の対話のプロセスを重要視する。
日本では破壊的イノベーションが起きにくいと言われている。それはどうしてなのか。日本とアメリカでは生活習慣や消費者の行動に大きく異なる点がいくつかあり、それがイノベーション創出の可能性を大いに左右しているように感じる。特に日本国内では幾つかの文化的背景がイノベーションの邪魔をしていると考えられる。
私がサンフランシスコにきて感じた、日本で破壊的イノベーションを起こすために捨てるべき3つのカルチャーを紹介したい。
1. “まずは日本国内から”精神
日本市場は世界的に見てもかなり大きい。だから破壊的イノベーションを起こすために、まずは日本市場で成功をおさめて、次に世界シェアを狙っていく。こういったルートを辿ることは正しいように思える。しかし私はこれこそが日本がグローバル展開を失敗する要因になっているのではないかという疑問を持っている。
日本標準≠世界標準
ガラパゴス化という言葉が流行したことで有名になったように日本では独自の進化を遂げている。冒頭で述べたような素晴らしい点も規制や資源の少なさといった日本の環境にあわせて作り上げられたものだ。さらに、日本は他の先進国と比べても、人種はほとんど単一民族である。
このような理由から日本向けに作られて成功したユニークな商品は海外展開する時にかえって障害になりやすい。
皆さんもご存知の通り、ガラパゴス携帯がまずは日本で成功しようとして、日本では一人1.1台持っているというほどに普及した。その後、海外を目指し、海外でのマーケティングに苦戦し、最終的には世界標準のスマートフォンに駆逐されてしまった。
これは、まずは日本国内のユーザーにとって最適なプロダクトを作成し、熟成した後で世界を目指した例であるが、始めからグローバル視点で作成されたスマホの使いやすさとかっこよさ、そしてアプリをはじめとした大規模なエコシステムに一網打尽にされた例である。
サンフランシスコスタートアップははじめから世界を見ている
海外のスタートアップ達の多くはサンフランシスコをサービスを試す実験場として利用する。地元→海外という流れは日本企業と似ているがサンフランシスコは人種のるつぼであるうえに、新しいモノ好きのアーリーアダプターが多いために、様々な文化や価値観を気軽にユーザー調査や社内議論から得ることができる。
これは東京など単一民族&保守的な考えの人が多い日本の都市と大きく異なる部分だ。
世界を見るサンフランシスコ・シリコンバレー企業のミッション
サンフランシスコやシリコンバレーの企業がはじめから世界を目指している事を示している例として、この地域の企業のミッション (存在意義) を見てみると分かりやすい。
以下にまとめているのはイノベーションを起こしたサンフランシスコ・シリコンバレーエリアの企業のミッションステートメントだ。これらから如何に彼らが小さい地域でなく世界を見ているかがわかる。
企業 | 和訳 | 原文 |
世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにする | Google’s mission is to organize the world‘s information and make it universally accessible and useful. | |
共有を広げ世界をもっとオープンにし、人々のつながりを強める | Facebook’s mission is to give people the power to share and make the world more open and connected. | |
世界中のユーザーの日常をシンプルにすること | The mission of Dropbox is to simplify life for people around the world. | |
世界中のユニークで感動的なスペースを提供するホストと本物の経験を探す旅行者をつなぐ | Airbnb connects travelers seeking authentic experiences with hosts offering unique, inspiring space in the world. | |
全ての人が障壁なく瞬時にアイディアや情報を作成、共有できるようにする | Our mission: To give everyone the power to create and share ideas and information instantly, without barriers. | |
全ての場所にいる全ての人のために、水が流れるのと同じくらい信頼できる運送を提供する | Transportation as reliable as running water, everywhere for everyone. |
これらの企業は大袈裟に言っているのではなく、真剣に世界全体を変えようとしている。そもそも、アメリカの企業のその多くにとっては、”国内”という概念すら存在しない。市場=世界市場がスタンダードである。こういったマインドセットが視野を広げることにつながっているのではないだろうか。
2. 他人に対しての無関心さ
「触らぬ神に祟りなし」ということわざがあるように、日本人は自分に関係ないことに関わるのを避ける。特に全くの他人と関わることなど滅多にはないだろう。例えば日本の電車の中で見知らぬ人に話しかければ不審者扱いされ、道ばたの異性に声をかければナンパと見なされる。下手すると警察に通報される事もありえる。
世界的にも極めて安全な日本国内で、おなじ日本人同士であるのに、元々知らない人、特に年齢、性別、職業の異なる人々に話しかける事すらままならない。まして、ダイナミックなコラボレーションなど生まれようながない。
一方で、サンフランシスコでは電車に乗っていると「そのカバンめちゃくちゃクールだね!どこで買ったの!?いくらした!?」などといきなり話しかけてくる事が日常茶飯事だ。
むしろ、話しかけられない日の方が少ないぐらいで、一回の通勤で数人の見知らぬ人と知り合う事も容易である。ちなみに僕の場合はそのいでたちからか、よくゲイに間違えられ、”Are you Gay?”と聞かれる。これも、サンフランシスコならでは。
この他人に対しての関心度は実は商品の普及のしやすさに影響が出る。見知らぬ人に声を掛ける好奇心の高さは、見知らぬプロダクトを試すきっかけや、他人が持っている製品からプロダクトをしるきっかけにもなりやすい。
商品が普及しやすい環境にあるサンフランシスコ
下の図は、米マーケティングコンサルタントのジェフェリー・ムーア氏が提唱したキャズム理論を表したものである。キャズム理論は商品が普及していく中で、アーリーアダプター型の顧客に受け入れられた後にアーリーマジョリティーの顧客に受け入れられるには容易に越えることができない大きな溝(キャズム)が存在するというものである。
他人の持っているものに興味を示し、質問をする。それに対して質問を受けた人は熱くその商品の価値について語る。こういうシーンが日常になっているサンフランシスコではこの溝はかなり浅いだろう。
企業側から見てみても新しくてイノベーティブな製品を試すならまずサンフランシスコ、と考える理由としてもうなずける。
That’s cool!” から生まれるコラボレーション
下の写真のように、サンフランシスコで働いている人の多く(特にエンジニア)は自分に興味のある分野やスタートアップのステッカーをパソコンに貼り付ける。これはただの自己主張ではなく、彼らからすると、名刺や自己表現のようなものだ。これは日本のスターバックスなどでも見かける光景ではあるが、これを見て”それしってる”と思う人はいるが、あえて話しかける人は極わずかであろう。
アメリカの場合はステッカーが話しかけるきっかけとして大きな役割を果たしている。他人が自分のものに ”That’s cool! (それいけてるじゃん!)”といった時、そこには壁など存在しない。人間同士が純粋に良いと思った事を共有する。年齢、性別、役職などは介在しない。
そのようなカジュアルな会話からはじまり、プロダクトを試してもらったり、アイディア交換などのコラボレーションが生まれているのだ。
一方、日本のビジネスシーンではどうであろうか。初対面の人に出会った時、まず行うのは名刺交換だろう。そして名刺を見た時、「あっこの人部長じゃん。なら丁寧に話をしよう」といった感じで自然と距離が開いてしまう。学生の若者と大企業の重役が共通した話題でざっくばらんに盛り上がる光景は少ない。
twitter創業者も出会いはカフェ
実際に、twitterの創業者のジャック・ドーシーと、エヴァン・ウィリアムスも知り合ったきっかけはSOMA地区のカフェである。twitterの構想を持っていたジャックと、ブロガーをGoogleに売却しお金とノウハウを持っていたウィリアムスとのコラボレーションが始まった。小さな公園の脇にあるこじんまりとしたサンドイッチカフェで知り合った事で、twitterという世界で3億人を超えるアクティブユーザーを持つサービスが誕生したのである。
小さなコラボレーションのきっかけが大きなイノベーションに繋がった良い例である。
3.セキュリティ過敏
弊社CEOもよく口にするのが「日本はセキュリティを気にしすぎるあまり、独創的なアイディアやユーザビリティを犠牲にしてしまっている」ということだ。
日本は世界でもトップレベルで安全だ。それは、様々な製品においてセキュリティに対する気遣いがなされているからだ。しかし、実はセキュリティの強化は時に閉鎖的な環境とイノベーションを生み出す為の弊害になる。
セキュリティ過敏になりすぎると、面白いアイディアがあったとしても、セキュリティ面での不安要素があるからという理由でボツになるか、ガチガチ制約がかかって陳腐化してしいがちである。
その点、サンフランシスコのスタートアップはセキュリティよりもまずは使いやすさとUXの良さを重要視し、ユーザーを獲得する。そこからプロトタイプを作りテストをしていく中で、セキュリティ面も徐々に改善していく。最初からヒットしない可能性のあるプロダクトにガチガチのセキュリティを考えても意味が無い。
Googleストリートビューはプライバシー度外視から生まれた
Googleストリートビューはセキュリティやプライバシーよりもユーザビリティやスピードを優先したことでできたサービスだ。行ったことのない道でもあらかじめストリートビューで確認しておけば、周りの風景や雰囲気などを掴んでおくこともできるという革新的なアイディアで、利用している人もかなり多いのではないだろうか。
このストリートビューも発表直後は顔がモザイクなしで写ってしまったり、見られてはいけない現場が写ってしまっていたりしたことで裁判沙汰になったりと多くの問題を抱えていた。Googleが使いやすさとユーザーメリットを最優先した故の結果である。
しかし今でもストリートビューが使われているのは、問題が発生したとき、迅速な対応や改善案を構築することができたことと、そのアイディアの独創性やニーズが人々に受け入れられているからではないだろうか。
安全過敏が生んだ日本の奇妙な風景
ちなみに、このようにマスクをしている人ばかりを見る光景は日本以外でなかなか見ることはない。この光景も日本が安全に対して過敏性が生んだのかもしれない。
海外から日本に来た多くの人達はこの光景をみて、”かなりヤバい状況だ”と思ってしまう。世界有数の安全、便利、快適な国でのこの光景は非常に奇妙に映るであろう。確かに日本はある意味ヤバい状況ではあるが、マスクをする事でどうしても周りの人との精神的な距離が出来てしまう。この雰囲気だとコラボレーションもイノベーションも起こしにくい。
Go beyond your Comfort Zone(快適な領域を超えてみよう)
私も含め多くの日本人にとって今の日本はComfort Zone(快適な領域)だ。この領域からでることはリスクもあるし、何より不安である。しかし、破壊的イノベーションを起こすには、新しい挑戦をする必要がある。
様々な背景を持つ人がコラボレーションし、独創的なアイディアで世界の人々の問題を解決することができるような環境を作り上げていくことが今の日本には求められているのではないだろうか。
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