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ストラトキャスターから学ぶ人気プロダクトを構成する10の要素
ストラトキャスターというギターをご存知だろうか?
通称 “ストラト” と呼ばれるこのモデルは、アメリカの大手ギターメーカーのFender (フェンダー) 社から発売されておりギブソン社のレスポールと並んで最も代表的なエレキギターである。
エリック・クラプトンやジミ・ヘンドリクスを始めとして数多くの著名ミュージシャンに愛され、多くのギタリストから絶大なる支持を得ているモデル。
ストラトは世界中で最も人気が高いベストセラーで、ジャズや、ブルース、カントリーからハードロックまでジャンルを選ばずに幅広く利用されている。恐らく音楽に詳しく無い人でもどこかで必ず目にした事があるはず。
そのシルエットはエレキギターの代名詞
おそらく誰もが ”エレキギター” と聞いて思い浮かべるギターはストラトの形をしているだろう。
現在でもファンが多いモデルでもあるが、実はこのギターの市場デビューは1954年。そして、その当時と今のストラトを比べてみても、細かい部分を除いては60年間ほぼ何も変わっていない。
この驚くべき事実は発売当初からこのプロダクトの完成度の高さを伺う事が出来る。ストラトは1950年代から21世紀の今でも通用する普遍的なデザインと機能性を兼ね備えている。
60年間変わらず愛されるプロダクト
日々新しいモデルの製品が生み出され、短期間のうちに使われなくなるプロダクトが多いこの世の中で、60年以上もの期間売れ続けているプロダクトはなかなか無い。それもデザイン、スペック共にほぼ同じ内容で。
言い換えると、発売当時から他のモデルが “イノベーションを起こせない” ぐらいに完成したギターなのである。
設計/開発に関する技術が進化した現代では古典的なストラトというモデル以外にもいくらでも、より優れたデザインと機能を兼ね備えた製品がありそうな気がする。
しかし、最も人気のあるギターは常にフェンダーのストラトキャスターに他ならないのだ。
プロを含め、”ストラトでなければならない”と言うミュージシャンは少なく無い。発売当初から現代に至るまで、数えきれないほどのギタリストから絶大なる信頼を得ている。
実は、最新のテクノロジーを活用してストラトよりもシャープで洗練されたデザインのギターや、スペック的な”性能” が高いギターは多く存在する。
しかし、どんな新製品でも60年以上前に設計されたこのモデルにはどうしてもかなわない。むしろ、フェンダー以外の他のメーカーが今でもこぞってストラトの “形”と “機能” を持つコピーモデルを販売しているぐらいである。
ストラト人気の秘密
ある意味、時代遅れで古典的とされる可能性もある60年前に作られたプロダクトが、今も変わらずそれほどまでにユーザーに愛され続けてきている理由はなんなのだろうか?
こんな製品は世の中を探してみてもほとんど無い。この希代のロングセラーの秘密を解き明かしてみたいと思う。
まずギタリストがストラトを選ぶ一番の理由は “音” である。幅広いジャンルの音楽で利用されている事からも分かる通り、一つのギターで異なるタイプの音を出す事が出来る。
これは “ピックアップ” と呼ばれる弾いた音を拾うパーツが3つ着いており、それらを自由に組み合わせる事で、複数の音色を出す事ができる。その幅広いトーンはロック、ブルース、カントリー、ジャズやヘビメタなど、幅広いジャンルのギタリストがストラトの虜になっている。
利用されているパーツも簡単に変更が可能で、社内外パーツが市場に多く販売されている。それぞれのユーザーが自身のニーズに合わせてカスタマイズしている。
一見無骨に見えるデザインも人間工学的にかなり考え尽くされている。重量バランスも良く、座って弾いても立って弾いても体にフィットする様なデザインが施されている。
そして、発売当時から画期的だったのが、カラーバリエーション。
それまでのギターが素材の木材の色をそのまま、もしくは補足的に茶色のサンバースト加工をしていただけなのに対し、ストラトは白や黒に加えて、自動車の塗装にヒントを得て、大胆にも複数の原色のカラーバリエーションから選べるようになりギター少年の心をくすぐった。
ユーザーニーズを徹底的に分析・採用
どのようにしてこの偉大なるロングヒットプロダクトは創り出されたのか?
それはこのプロダクトがデザイン、製作されたプロセスを見てみると納得出来る。
ストラトはフェンダー社のオーナーであるレオ・フェンダーが同社のエレキギター、テレキャスターの次のモデルとして幅広い音楽ジャンルで普遍的に利用してもらための製品の開発を開始した。
フェンダー自身はギタリストではなかったため、プロのギタリストを開発プロセスに参加してもらい、使いやすさ、音質、メンテナンス性、カスタマイズ性など、ユーザー視点で複数のニーズの洗い出しを徹底的に行い、それを踏まえてプロダクトのデザインを行った。
実際のエンドユーザーから得られたニーズに関する膨大なるデータを元に細心の注意を払い設計を進めた。その後、複数の試作品を何度も試してもらい、最終的な仕様に落とし込んだ。
加えて、大量生産を行う際の効率性とコスト面も考え、それぞの箇所に汎用性の高いパーツの利用。
さらに、それまでは接着型だったネックとボディーをボルトオン型を採用。生産プロセスの効率化に加え、ユーザー自身でネックの変更が出来る様にする事で、整備性とカスタマイズ性を高めた。
既存の概念やテクノロジーに捕われる事無く、ユーザーと生産プロセスを優先したところ、最終的に採用した機能もベーシックでシンプルな内容に落ち着いた。これにより生産コストが低く、壊れにくいギターが完成した。
ストラトは ”デザイン思考” のプロセスで生み出されたプロダクト
このプロダクトと開発のプロセスはまさに現代で言うところの”デザイン思考“の手法である。
利用者のニーズをとことん理解しそれを元に仮説を立て、ユーザーに使ってもらいながらプロダクトを完成させている。テクノロジー主導ではなくユーザー主導型のプロセスである。
それにより、ストラトはそれまでのエレキギターの常識とはかなり異なるデザインとスペックにも関わらず、ギタリストから大きな人気を得た。実は、エレキギターとしてはストラトのリリースはかなり後発だった。
それにも関わらず、コアなファンから徐々に火が着き、60年代の頃にはエレキギターのスタンダードとしての地位を獲得し、現在も王者として君臨してる。
既にヒットしている製品を安易に参考にせずに、一度ユーザーの視点に立ち返ってプロダクトのデザインを行ったプロセスは、60年後の現代でも非常に参考になる。
最近になって話題になっているデザイン思考であるが、この活用した開発プロセスは実は当時から行われ、後世に続く人気商品を生み出していたのだ。
ストラトの成功から現代のプロダクト開発に適用出来る10のポイント
そのようなデザイン思考的プロセスで作られたストラトであるが、長年に渡ってヒットしているのには下記の具体的な10のポイントがある。
- 必ずユーザー視点を盛り込む
- 使いやすさを追求する
- 出来るだけシンプルに作る
- それぞれニーズに合わせて自由に幅広く使える機能性
- 自由なカスタマイズを可能にする (プロダクトのプラットフォーム化)
- 普遍的で飽きさせないデザイン
- 数十年後でも使える設計を行う
- 互換性の高いパーツ利用を可能にする
- 製作プロセスを効率化させる事を念頭に置く
- 安易に既存のプロダクトの模倣を行わない
このように、正しいプロセスで創り出されたプロダクトは、長い時間を経ても色あせない普遍的な美しさと機能性を兼ね備えている。
まさに優れたデザインがプロダクトに永遠の命を吹き込んだ一つの好例である。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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