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シリコンバレーで茶ッカソンに参加してみた
おおよそ数ヶ月前、5月3日にシリコンバレーにあるEVERNOTE本社でハッカソンが開催された。ハッカソンとは、週末などに複数の人が一つの場所に集まり、チームを編成し、数時間以内でアイディアを出し合い、最終的にはビジネスプランやプロトタイプを作成し発表するコンテスト。
こちらシリコンバレー周辺ではとても一般的なタイプのイベントで、毎週のようにどこかで開催されている。
参加者の多くはエンジニアなどの技術系になる事が多いが、最近ではデザイナーやビジネス系等、幅広いタイプの人々も珍しく無い。ハッカソンに参加する事で得られるメリットとしては主に、1. 参加者とのネットワーキング、2. 新規ビジネスアイディア創出、3. 自分の技術力の腕試し、などがあげられる。
今回開催されたのは、お〜いお茶で有名な伊藤園主催による茶ッカソン。お茶とハッカソンを合わせた造語であるが、アイディアを”着火”させるという意味もある。伊藤園がアメリカ西海岸を中心として、北米のIT企業で大人気である事は有名であるが、今回のイベントは北米での伊藤園ブームの立役者である角野賢一氏が任期を終え、日本に戻られるという事で、送別会的な意味合いもあった。
btrax CEOへの突然の招待
イベント開催の約1ヶ月程前に、角野さんから”最後の晴れ舞台”として、当イベントへの開催のお知らせ、及び参加の招待を受けた。そのメッセージに対しては、”是非、いちデザイナーとして参加させて下さい”と返信をした。
今までにもStartup Weekendのメンターや、JapanNightの主催、サンフランシスコ地域で開催される各種スタートアップ系イベントでの審査員をさせて頂いた事は何度もある。しかし、実はチームメンバーとしてハッカソンに参加するのはこれが初めて。とても楽しみにはしていたものの、開催日が近づくにつれ、多少のおっくうさを感じてしまっていた。
しかし、当日はシリコンバレー地域で大人気の俺ん家ラーメンがふる舞われるとの事で、カジュアルな感覚で行ってみた。ところが、会場ではテーブルごとに4-5人で編成される10チームがキッチリと設定されており、かなりガチな雰囲気。
それも自分はチーム1のリーダーに指名されていた。他の参加メンバーや審査員の顔ぶれも、著名なVCの方々や起業家としての大先輩を含め、かなり豪華。当然イベントチケットはソールドアウト。興味本位の思いで参加した自分としては、かなりのショックである。
負けるわけにはいかない
チームのリーダーを任せられ、本職でもbtrax社のCEOとして約10年間、企業向けのマーケティング企画、ビジネスプラン、デザインコンサルティングを日々提供し、それに加えスタートアップ系のイベントも自社主催し普段からかなり偉そうな事を言っている手前、絶対に負ける事は許されない。とは言え、ハッカソンのテーマ等、イベントの詳しい内容を一切調べていなかったため、準備不足は否めない。とりあえず事前に発表されていたコンテスト内容を開催当日に初めて理解することに。
前半のテーマはアメリカで無糖ドリンクを普及させる
イベントのテーマは前半と後半の2部構成で分けられ、それぞれ2時間弱でアイディアを考え、プレゼンを行うビジネスプランコンテストであった。そして、1つめのテーマは「北米にて消費される飲料の50%を無糖にする」プランを発案し、発表する。アメリカでは近年健康志向が高まり、都会を中心として緑茶など、糖分を含まない飲み物の人気がアップしている。
とは言うものの、コーラや炭酸飲料などの糖分を多く含むソーダ系飲料が絶大なる人気を誇っているのも事実。これを覆すにはかなり画期的なアイディアが必要とされる。
でも問題は無い。本職としてのデザイン力といままで培って来た企画力、そしてこれまで参加、開催して来たスタートアップ系イベントでの経験をフルに活用すれば、優勝出来るはず、と思った。
企画の方向性は”インパクト重視”
まずはチームメンバーを集め、「いままでの経験上、こういうタイプのイベントは細かなプラン内容よりも、インパクト勝負で行った方が良い。審査員も一番印象が強かったチームに投票すはずです。今まで何度もイベントを開催していたから分かってるので、信じてついてきて下さい」とリーダーとして方向性の説明。細かい事は抜きにして、完全インパクト重視の方向性で進める事にした。
全米のドリンク消費者を対象にキャンペーンの企画を考える場合、中途半端な内容では通用しない。それも50%を無糖に変換させるには、各種セクターのマーケットに対して異なる企画を考える必要がある。それもかなりのインパクトが必要である。
他のチームのほとんどが、綿密な売り上げ分析を元にした現実的な事業戦略や、米国大手メーカーとの協業など、かなりシリアスなプラン内容であるのに対し、僕たちはあくまで”インパクト重視”にこだわった。プレゼン系イベントで高得点を稼ぐにはとにかく記憶に残る内容が重要である。
具体的な企画内容として、現在サンフランシスコ市飲料水のボトル容器の全面廃止に向けて動いているのに注目し、飲料50%の無糖化も義務化する事を政府に働きかける事。学校等の教育機関に伊藤園が無償でお茶を提供する事。
そして、ビジネス関連の人々にもインパクトを与える為に、シリコンバレーではカリスマ的人気を誇るテスラ社CEO、イーロン・マスクがスペースX社で火星旅行に行った際にお〜いお茶を持参してもらい、到着時に「私にとっては小さな一杯だが、人類にとっては大きな一杯だ」と言ってもらうキャンペーン。
極めつけは、アメリカ全土のティーンエイジャーの心をわしづかみにする為に、大胆にもオリジナルのヒップホップ曲を作り、幸運にもチームメンバーにラップ上手のエンジニアの方がいたので、プレゼンの際にラップとダンスを披露する事にした。
それもMCハマーとタイアップし、ユニット名は、”MC茶ャマー &Green Tea Gangsters”。オリジナルのCDジャケットもデザインした。
そして、“Yo! 俺たちゃ緑色のブラザー。コーラなんで飲んでる場合じゃ無いcha”
など、商品の魅力をティーンズに伝えるイカしたリリックを皆で力を合わせ、ごく短時間で作り上げた。
完璧なプレゼン内容…のはずだった
ここまでやれば、勝利は間違い無い… はずだった。
しかし、プレゼンでラップとダンスを完璧に決めた直後、会場の空気が凍り付いていることに気がついた。
審査員からは、「えーと、MC茶ャマーの企画にはいくらぐらい予算がかるのかな?」とかなりガチな質問。
「まあ、3億円ぐらい見ておけば」と曖昧な返答をするしかなかった。
矢継ぎ早に、「イーロン・マスクとコネはあるの?」と聞かれ、
「はい。悪い奴はだいたい友達です」などと意味不明な答え。
完全にすべった感が否めない状態。その他の審査員は苦笑いで「はい。おつかれ」的な感じ。
後半のテーマはお〜いお茶ユーザーにEVERNOTEを普及させる
ディレクションミスでチームメンバー全員に恥をかかせたリーダーの責任は重いと思った。これはどうにか後半で取り返さなければ。しかし、前半のロスはちょっとやそっとでは取り返せないだろう。方向転換をし、全力で行くしかない。後半のテーマは「お〜いお茶を飲む人の50%をEVERNOTEユーザーにする」
前半での反省をフルに生かし、手のひらを返す様に「インパクト重視は忘れましょう。これからはロジカルの時代です」と方向性を定めた。 その後はチームメンバー1人1人の協力を得て、打って変わって綿密な市場データの分析、ターゲットマーケットの選定、具体的でロジカルな戦略立案など、まるで経営コンサル的な企画内容にする事にした。
その内容としては、お〜いお茶が50代消費者のお茶ブランド支持ランキング1位である事、ダイエットに良い事を元に、中高年+ダイエット中の方に向けた
“お茶を持ってお遍路巡りをしよう!そして、EVERNOTEでログを取ろう!”
キャンペーンを立案。四国のお遍路で巡るお寺にてEVERNOTE経由でログを取りながら、そこで読んだ短歌や俳句を写真とともに絵はがきで送る事が出来るという、ライフログ&O2O的コンセプト。前半でラップをしてくれたエンジニアがここでも実力をいかんなく発揮。プレゼンの際に下記のサンプルの短歌を披露した際には会場から大きな拍手が沸いた。
“お茶のみて エバーノートに上げたれば 喉にしみいる科学の進歩”
“お遍路を エバーノートに上げたれば 孫の代まで 残る足跡”
“お遍路で ホット一息するときは 道のともなる お〜いお茶かな”
加えて、求められる具体的な効果測定やビジネス的価値もあくまでロジカルに説明する事が出来た。前半とは打って変わって、他のチームメンバーの方々のおかげで、プレゼンの際に審査員からは、“これ、本当に全部90分で作ったの?”と聞かれた程のクオリティーまで持っていく事が出来た。
そして結果発表
前半のラップ&ダンスでかなりダダ滑りだったこともあり、全体の点数でどうなるか正直わからなかったが、最終的な結果は….
なんと、優勝!
発表の際に、審査委員長のEVERNOTE日本法人会長の外村さんから、「君のチーム、前半ではビリから2番目だったけど、残念ながら全体の合計得点では、何をどうやっても優勝になっちゃんだったんだよね」と愛のある一言をいただいた。
イベントの様子と、優勝チームとして地元の日系新聞に掲載された
今回、茶ャッカソンに参加して得た事
最初は興味本位での参加であったが、今回の茶ャッカソンに参加した事で得られた事は多い。まずはチームワークの大切さ。リーダーといえども単独で突っ走ってしまっては良い物は出来ない。やはりそれぞれのメンバーの良さを引き出すのがリーダーの仕事だと実感した。そして、参加するイベントにおいての、オーディエンスや審査員がどんな人達で、どんな内容を求め、どのようなポイントを評価しているのを知る事が、勝利をする為には最も重要だと言う事も学んだ。
最後に、伊藤園の角野さん長い間有り難うございました。あなたはシリコンバレーに大きな足跡を残した、真のパイオニアです。
来月東京で予選が開催される弊社主催のJapanNightに出場されるスタートアップの方々も、是非頑張って下さい。応援しています。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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