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ユーザーエクスペリエンスとは何か?【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(前編)
世界中で講演を行い、ホワイトハウスでもプレゼンテーションを行ったという「UXの第一人者」Janice Fraser氏。 UXに特化する会社を立ち上げた彼女の経験・バックグラウンドや、彼女が語る「Lean UX」などに関しては同記事の後編に譲るとして、まずは彼女が定義する「UXとは何か?」ということや、よく混同されがちな「UIとUXの違い」、更には「国を超えるとUXに違いはあるのか?」「良いUXを測るための指標」について伺った。
◆目次(前編)◆
- UXとは?
- 混同されがちなUIとUX
- UXに国ごとの違いはあるか?
- 良いUXかどうかを測る指標は?
◆話者プロフィール◆
ゲストトーカー:Janice Fraser LUXr, Inc. CEO @clevergirl UXデザイナー、起業家。UXを重視したウェブサービスのデザインを手がけるAdaptive Path社の共同創業者、初代CEO。 15年に渡るシリコンバレー・スタートアップで経験を活かし、経営コンサルタントとしても活躍。現在世界中で講演を行っており、「UXとは?」「Lean Startupとは?」「Lean UXとは?」などのホットな話題について持論を展開している。 (Janiceさんに関するまとめ記事に関しては、こちら。)
インタビュアー:Brandon K. HIll (ブランドン・片山・ヒル ) btrax, Inc. CEO @BrandonKHill サンフランシスコ州立大学デザイン科卒。北海道札幌市出身の日米ハーフ。高校卒業時までほぼ日本で育ち、1997年アメリカサンフランシスコに移住。現在は サンフランシスコに本社のあるグローバル市場向けBranding / Marketing 会社btrax, Inc. CEO。今後の目標は日本の若い起業家、起業家志望者に向け、より多くの成功事例を見せる事により、世界進出の夢を与えること。
1. UXとはブランドである?!〜UXとは何か〜
Brandon K Hill(以下BH)Janiceさんはユーザーエクスペリエンス(UX)とは何だと定義していますか?
Janice Fraser(以下JF)そうですね、私はユーザーエクスペリエンスを「Outcome(結果として生じるもの)」だと捉えています。ある人があるシステムに触れた時に、そのシステムがどう動くのか。それで、それらが動いた結果、「認識」だとか「反応」が起こる訳ですよね。UXはそういう「認識」や「反応」の集合だと思います。 あと、私はUXを「ブランド」に近いものだと思うんです。私たちはものを作る時、入念にデザインしますよね?コンセプトなど概念的なことを決める時も、じっくり考えて決めますよね。ただ、ブランドは本当に感覚的な部分で後から得られるもので、UXもこういった「後から生じるもの」の一種だと思っています。ある人がする、体験そのもののこと。
2. UIはUXの一部?〜混同されるUIとUX〜
BH) それでは、UIとUXに明確な境界線はあるのでしょうか。これら2つを混同しているものをたまに見かけるのですが。
JF) ありますね、それらを混同するのは大きな間違いです。オンライン上で、UX・UI・プロダクトの違いを分かりやすく写真で説明したものを見つけたことがあるんですが。(参考記事:The Difference Between UX and UI )
UXはUIよりももっと広いもの
朝ご飯を食べている様子を考えてみましょう。ボウル、スプーン、シリアルの一粒一粒、これらが「プロダクト」にあたります。これはUXではありません。「機能リスト」みたいなものですかね。そして、UIというのは「スプーン」だと考えることができるかもしれませんね。なぜかと言うと、スプーンは、シリアルを口に運ぶ「デリバリー」の役割をしているから。そしてUXというのは…。
BH) ミルクをかけたシリアルに苺を乗せて…。
JF) そう、それでそれを食べることです。食べる体験そのもの、これがまさにエクスペリエンスなんです。具体的に言えば、例えば「シリアルがどれくらい柔らかくなっているか」とか「ミルクがどれだけ新鮮か」といった感じですかね。だから、UXはUIではないんです。エクスペリエンスはもっと大きな概念なんです。UIとUXの違いというのは、ブランディングで言うと、ロゴとブランドのようなものだと思っています。
BH) ブランドがエクスペリエンスなんですね。
JF) その通り。UXというのはもっと広くて抽象的な概念です。私の考えでは、UIというのはスクリーン上の世界のもの。人がシステムに働きかけることを可能にしてくれる、スクリーン上の「一機能」といったものかと思います。もちろん、UXからUIのヒントを得ることもあれば、UIが良いUX構築につながることもあって、これらは全て互いに組み合わさってできています。ただ、UIはもっと限定的で、言ってみれば、「非常に広いカテゴリの中の、一つの構成要素」だと思います。
UI/UXデザイナーの肩書きなんて存在しない
そして、これは実は私がスタートアップや、ワークショップ、アドバイザリーなどで必ずアドバイスとして話すことなんですが、UXに秀でた人(UX person)を雇いたいと思うなら、「UI/UX○○」といった書き方をしないこと。そういう書き方をすることで、理解ができていないということを露呈しているんです。「UI・UX何でもできる人を雇いたいけど、私はよく分かっていません」と言っているようなものなんです。 つまり、「何でもできますよ」という人よりも、UXパーソンの中でUIデザインをやりたがっている人、あるいはUIデザイナーの中でもっと広い考え方で物事を見たがっている人を探す方が良いんです。
3. 国が変わればユーザー体験も変わる?〜UXに国ごとの違いはあるか〜
BH) これまでに、日本とアメリカでUXの違いを何か感じたことはありますか?
JF) 正直、分かりません(笑)
BH) 特に何も思わなかった?
JF) 私が「分からない」と思うひとつの理由は、日本語を読めないからだと思います。あと、UXを判断する時には、そのプロダクト全体やエクスペリエンス全体を本気で意識しない限りできないと思っています。なので、私は外観では判断できても、本当のUX的な意味での判断はできないと思います。特に私は日本文化の外にいる人間なので。だから私は日本でどんな問題があって、解決されようとしているのか分からないんです。
人間は同じように見えてこんなに違う、違うように見えて実はこんなに似てる
私たちは同じ人間ですが、同じ人間という括りであっても、感じ方も期待していることも違えば、ニーズ(知覚的なニーズ)も違うと思っています。
ただ、その一方で、世界全体が「一つのコミュニティ」かと思うような強いまとまりを感じることがあって、凄く驚かされることがあります。昨年私は世界中を飛び回ってアントレプレナーを中心に話をしてきましたが、互いのことを全く知らなくても、国が違っても、抱えてる問題は同じ、ニーズは同じ、感じていることも同じなんです。
「仲間意識」みたいなものですかね。私自身そんなものがあるなんて知らなかったのですが。昨年私は50カ国以上のアントレプレナー達と仕事をしましたが、質問を投げかけ、同意を取り合って、未来を作り直すといった全ての面で、私たちはつながれるんです。「とてつもなく大きな共通性」のようなものを感じました。例えばどの国のco-workingスペースに行っても、違和感なくco-workingスペースとして感じることが出来ますよね。
つまり、一方では私たち人間がどれほど似通っているかということに驚きながら、もう一方では私たちがどれほど違っているかということに驚かされています。私は大学で「Unity and Variety in Biology and Literature(生物学と文学における、統一性と多様性)」という授業を取ったことがあります。その授業の全体的な考え方としては、「普通は関連性を持たない物事につながりを持たせる」というものだったと思います。
そこで私が感じたことは、文化の違いというものはこれからもずっとキーポイントであり続けるだろうなということです。全く異なる文化的背景を持つ人々を一緒にすると、私たちは「違い」を極端に感じます。その一方で文化的な共通点があると私たちはつながっているような気持ちになりますよね。こういったパラドックスは本当に面白いですよね。これからどうなっていくのか、すごく楽しみです。
何かを変えたいと思うなら、まずその世界を生きること
今、私たちはある種の転換点に直面していると思います。私にとっては新しいことですが、前々からこういうことをしていた人には別に新しくないかもしれませんね。Dave McClure氏なんかは5年前に感じたことだと思います。”Be the change that you want to see in the world(見たい世界があるなら、自分自身が「変化」になれ)”なんていう言葉がありますよね。
ただ私は、何かを変えたいと思うなら、「まずその世界を生きなければならない」と思っています。今世の中で起こっていることがどこに向かっているのか正直まだよく分からないんですが、少なくとも良い方向に向かっていると思います。
アントレプレナーの人の中に「人からお金を騙し取る最悪なものを作ってるんだよ」と言っている人は見ませんしね(笑)経済が今すぐ立て直される訳でもなければ、うまく行かないことも山ほどあると思います。ただ、私は今の状況を気に入っていますし、何と言うか、将来が本当に楽しみなんです。
BH) 新しい時代が来ているんですね。
JF) そうだと思います。
4. ユーザーに愛されるプロダクトを目指して〜良いUXを測るための指標〜
BH) Janiceさんは、どのようにして良いUXかどうかを測っていますか?
JF) お客さんが喜んでいるかどうかですね。私は顧客になる人にプロダクトを愛してほしいと思っています。私たちの会社であるLUXrのモットーの一つは、”Products customers love to buy (顧客が買いたいと思うプロダクト)”というものです。お客さんが使いたいと思うだけでは足りないんです。それは必要なことではあるんですが、それだけでは十分ではありません。
顧客が「買いたい」と思うプロダクト
Appleのプロダクトを人々が好んで買うのは、「Appleのプロダクトを使うと、大体の場合良いエクスペリエンスが得られるから」だと考えています。私は、クライアントやお客さん全員と”Brand Relationship”という関係性を持つことができればと思っています。
信頼性が高く、一貫して良いユーザーエクスペリエンスが得られて、人々が好んでプロダクトを買うような状態ですね。私自身にもそんなブランディングができればと思っています。人々が「あ、これはLUXrのプロダクトだ」「何かトラブルがあるなら、LUXrのプロダクトが凄く良いと思うよ」と言ってくれるような。そして、それが私にとっての究極的なUXの指標なんです。
優れたUXを提供する、リアルな服屋さん
BH) UXが優れていると思うプロダクトはありますか?
JF) 辛口なんですが、特に何もないんです。(笑) ただ、私が大好きなお店の話をしましょう。私は、世の中で最も難しいことは、46歳女性の服選びだと思っています。私たちの世代は、自分たちが望む以上に年を重ねてしまっていて、どんなカテゴリーにも上手く合わなくなってしまうんです。可愛くて若い服を着れなくなってしまいます。
White House Black Marketというお店があって、彼らは自分のお客さんが誰かをよく分かっています。彼らにとってのお客さんは私なんです。綺麗に服を着こなしたいけど、何を着れば良いのか分からない、そんな女性。 お店の中に入ると、服が綺麗に並べられていて、ナビゲートしやすくなっています。
ただ最も素晴らしいのは、誰かが近づいてきて「いらっしゃいませ、何かをお探しでしょうか?」と言って来るときです。彼らはお客さんの女性を試着室に案内し、本当にたくさんの服を持ってきます。何と言うか、「1時間くれればどんな風なスタイルにもしてあげられますよ」という感じです。服も良く仕立てられています。
White House Black Marketという名前なのは、白と黒が普遍的な色だからです。それに色をいくつか付け加えることもできますが、白と黒によってスタイルの基本的な部分が出来上がりますよね。
彼らは自分たちのお客さんをあらゆる面から理解していると思います。色のチョイスから、選ぶ素材、洗濯機で洗えるかといったことまで何でも、彼らは顧客のニーズを一人一人しっかりと把握し、考慮します。試着室も大きく、自分一人には大きすぎるほど、大きな鏡もあれば、座る場所も広い。
そして何より、ここは高級店ではないんです。一般的な女性が何気なく通えるお店なのに、まるで「自分を綺麗にしてくれるために作られたお店」のように感じられる、そんな経験ができる場所です。だから私はそのお店でのエクスペリエンスが、この上なく素晴らしいUXデザインだと思っています。
(*後編に続く)
優れたUXデザイナーが持つ資質・マインドセットとは?【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(後編)を読む
文責:西山 七穂 (@sanuco_74)
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