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〜迷ったら逃げろ〜 [起業家インタビュー] NEW PEOPLE 代表 堀淵 清治氏
「迷ったら逃げろ。」
これはNEW PEOPLE, Inc. CEO 堀淵清治氏が日本の若者へ送ったメッセージだ。
まずは直面していることから逃げろ、と言いたい。これを選ばなきゃという社会的プレッシャーや不安は確かにある。だけど、思い詰めることなんて何もない。とりあえず迷ったら逃げる。逃げられなくなったら腹をくくる。
「そういう考えの方が、世界平和の役に立つと思うんだけどな。(笑)」と最後にお茶目に付け足す堀淵氏は筋金入りのヒッピーだった。早稲田大学法学部卒業後就活をせずにそのままアメリカへ飛び立ったまま、10年間事実上仕事をせず山にこもっていたという。
しかしその後1985年に会社を立ち上げた彼こそが、日本が世界に誇るマンガという文化をアメリカ、そして世界へ広めた第一人者。彼は今、ここサンフランシスコでまた新たな挑戦を始めている。一起業家としての堀淵氏にこれまで、そして今後のビジョンを伺った。
自分の直感に従って「面白い」と思うことにトライし続けてきた結果が、日本とアメリカ、そして世界とを結ぶ「文化の架け橋」となった。(中略)我々ひとりひとりの直感は、きっと世界のどこかでつながっている。僕はそう信じている。
(『萌えるアメリカ』P11)
なぜアメリカに来ようと思ったのでしょうか。
大学三年のときに友達と一ヶ月サンフランシスコを旅行。この全てを包み込むような雰囲気にすっかり惚れ込んでしまって、卒業と同時に渡米。なぜ日本で就職しなかったかというと、知らない誰かと机を並べて仕事をするのが嫌だった。
どのようにして日本のマンガをアメリカに持ってこようという発想を思いついたのでしょうか。
大学生時代、マンガは好きだったけどマンガオタク、という訳ではなかったんですよ。久々に一時帰国した際に読んだ大友克洋の『童夢』を読んで、日本のマンガはここまで進んでいるのか、と衝撃を受け、1985年、小学館のオーナーに会ってそのときふと「日本のマンガをアメリカでやったら面白いと思うんです。」と話したことから話が始まった。
ビジネスなんてほとんど何も知らなかったしマンガオタクでもなかったけど、逆に知らなかったことが良かったのかもしれない。
堀淵氏は1986年7月7日に小学館の出資を受けVIZ Communications, Inc.を設立。1999年のアメリカでのポケモンの大ヒットや、2002年にはアメリカ版週間少年ジャンプを販売開始。まさにアメリカにおけるマンガ/コミックス市場拡大を牽引してきた。
卒業と同時に渡米し、マンガオタクでもなくビジネスの知識もなかったという堀淵氏。金儲けやビジネスに興味が無く、自分のやりたいことを追い求めて気付いたら会社という形になって人が周りに集まっていた—多くの起業を志す人々は堀淵氏のように自分のやりたいこと夢を追い求めて結果会社を作りたいと思い起業家となるのだろう。
ではその後、世の中から求められて会社を大きくしていく必要がでたとき、どのようにその組織を大きくしていくのだろうか?
起業家、経営者として、どのように組織を大きくしていくのでしょうか。
できない。僕にも君にも。そもそもの発想が違うから無理なんだ。
そういったことを考えてくれるパートナーがいてくれれば大きくなる。逆に経営者はentrepreneurとしての最初のビジョンが何よりも重要。僕みたいに適当にやっていこうって人もいるけど、100人近く(の組織)になってくるといい加減なことは出来ないよね。(笑)だからHRが必要になってくる。
会社を大きくしていくこともなかなか勇気がいる。その辺はまあ、そうなったときに考える。とにかく自分の思い描くコーポレートカルチャーを作り守って行くこと、ビジネスパートナーとして会社のことをきちっと考えてくれる人、この2つが重要。
1987年に堀淵氏を含め4名でスタートした VIZ Communications, Inc.はその後2003年に小学館と集英社の合同出資を受けてVIZ, LLCに。2005年にはマルチメディアカンパニーとしてのブランドを確立するために小プロエンターテインメントと合併しVIZ Media, LLC.と改名。
アメリカに日本のマンガが広がると同様に拡大していったVIZだが、現在堀淵氏の軸は出版業務から映画配給やイベント運営に移っている。
2009年、堀淵氏はサンフランシスコのジャパンタウンにNEW PEOPLE, Inc.という新しい会社、そして同名のビルを立ち上げた。
現在はマンガ出版の第一線からは退かれているとのことですが、どのようなことをされているのでしょうか。
ビル建てたからね、NEW PEOPLEの管理運営かな。(笑)あと映画の配給とポップカルチャーのお祭り、アメリカに進出してくる日本企業のお手伝いをしている。
特にビルに関するところでは、京都のデザイナーと100%made in Japan、失われつつある日本の伝統技術で『SOU・SOU』というブランドを作っている。例えば、地下足袋は放っておいたらなくなってしまうけど、スニーカー風にして・・・ゆっくりでいいからこれを世界中に売り出して行きたい。日本の伝統文化を守るためという民族主義的発想よりは、(日本の伝統文化は)純粋にかっこいい!っていう発想。かっこいいものを作りたい。
そう語る堀淵氏は著書の中でも日本という国の魅力を以下のように述べている。
僕にとって日本の魅力とは、この国のおおらかさや曖昧さから生まれる美しい柔軟性だ。
(中略)ではその(日本人らしい)オリジナリティとは何なのかとあらためて考えるとき、僕はやはり、アメリカへやってきたすぐの頃、ヒッピー文化を通じて精神世界や東洋思想に触れた際に思いがけず再開した「八百万の神々が住む国ニッポン」の美しい自然を思い起こす。
(中略)それはつまり、世界はいつも我々とつながっているのだということを、古代から聖域として遺し伝えて来た国のオリジナリティだ。
(『萌えるアメリカ』P244)
今後のビジョンについて詳しくお聞かせください。
日本の価値を世界に紹介する「文化ビジネス」を今後もっとやっていきたい。日本の知恵・ノウハウをもっとアメリカに、そして世界に伝えていきたい。ただこればっかりはなかなか一起業がビジネスとしてやることに限界を感じていて、本当は国がもっとお金を出してやっていく必要があるだろう。
具体的に今後やろうと思っていることは2つ。
1つは1年に1回行われるJ-POPサミットをもっと洗練させて大きくしていきたい。
あとは日本からアメリカに来たいと思っている若い人や会社へのコンサルティング。今、パワーはアジアに向いているけどアメリカは巨大な国で、ここで何か出来ることはないかなって来る人がたくさんいる。一緒にやれて、自分も面白くて、ビジネスも上手く行くと思うものをお手伝いしたい。
ただ、アメリカだから自由でいいでしょ、って思ってる人がいるけどそれは違う。どこでも人と人との基本の付き合いがあるから礼儀をつくすとか最低ラインの基本が無いとダメ。
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