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このままだと日本の起業家は世界に通用しないと言われた話
以前に日本企業及び市場と関わりの深い友人と “とある” 議論をした。この友人はシリコンバレーが拠点の世界指折りのVCファームに勤務しており、多くの米国企業の日本市場向け投資案件の責任者でもある。
学歴/職歴共に超エリートで相当な切れ者。会社を設立する前より幾度と無く親身に相談にのってもらっていた恩人である。そこでとあるトピックに関しての質問をした。
21世紀にSONYやHONDA, Panasonicなどの企業は生まれるのか?
その内容は単純で、なぜ現代において世界に通用する日本の起業家やスタートアップが少ないのか?。
というのも、昔の日本はSONY, HONDA, Panasonicなど、ものづくり系を中心に、相当貧しく不利な環境にも負けず、這い上がり、会社を興し、世界を舞台に活躍した起業家が多くいた。その頃に出来た事がなぜ最近は出来なくなってしまったのか。もしくは、そろそろそのような世界的企業がまた出てくるのだろうか?
現代の方が世界進出しやすいはず
昔と比べても今の時代は、瞬時に情報が入ってくるし、言葉の壁も少しずつ低くなりつつある。なのに、世界的に話題になる起業家で日本出身の人は多くない。
あの時代に可能だった事が、現代出来なくなったとはどうしても考えにくい。このボーダレスの時代、むしろ環境的には有利になって来ているのではないか。
なのに、日本から世界に通用するような起業家、松下幸之助、本田宗一郎、井深大、盛田昭夫、稲盛和夫等に続く人間が現れないのが少し不思議だった。
友人からの意外な見解
こんな問いに対して友人は冷静に一言、
無理だろうね。
と答えた。
多くのグローバル企業を理論的に分析してきている彼が放ったその一言はあまりにもショックだった。
どうしても理由が知りたかった。それに対しての彼の答えは
時代が違う。
だった。
時代が違う? どう考えても時代は良くなっているはずに思えたが、その先には納得をせざるを得ない3つのファクターがあった。
1. 優秀な人間の選択肢 – 起業はROIが合わない
戦後は財閥解体や既存のシステムの崩壊等で、全てをゼロから作り直さなければならなかった。それが故に安定した職や、大企業が少なかった。
そのような環境下での多くの若者達の選択肢は、自分で何かを始めること。何も無い所から、失う物が無い状態で裸一貫から事業を始めるケースが多かった。必然的にその中から優秀な人間が頭角を現し、大企業まで育て上げ、世界を舞台に戦った。
一方現代では、多くの優秀な人材は大企業で働く事を望む。相当な時間、お金、エネルギーを費やしてトップレベルの大学を出た人間にとって、ベンチャー企業を始めるのはあまりにもリスクが大きい。それに対するリワードも低過ぎる。言い換えると起業はROIが合わない。
従って、彼らは “とりあえず” は大企業に就職する。そのうち起業家精神は薄れて行く。必然的に現代の日本で起業する人たちの数もレベルは低くなってしまう。リスク vs リワードを検討した結果、優秀な人が会社を始めるケースが多いアメリカと比べてみても、不利である。優秀な人間は会社を始めない時代になってしまった。
2. 教育システム – 答えのあることしか教えない
僕自身は日本での学校(中学/高校)では、相当落ちこぼれの部類に入っていた。興味のある事だけにとことんこだわってしまう性分のため、日本の教育/評価システムには全く適合していなかったのだと思う。それ故に、いくら英語の点数が良くても、合格できるであろう大学も極わずかだった。
参考: 日本では完全に敗者だった【インタビュー】btrax CEO, Brandon K. Hill
しかし、それがアメリカの大学では、同じ学部の誰にも負けない自信があった。好きなことをとことん勉強していたから。
好きな事に没頭させ自主性を育てる教育システムは、エキスパートやリーダーを育てるのに最適である。少々バランスが取れていなく、協調性が低くても、その人間に適した活躍の場を与えられる。
一方、彼によると、日本の教育は優秀な “組織人育成プログラム” だという。起業家になるようなタイプの人材は日本の教育システムでは評価されにくいらしい。
協調性を重視し、自分が興味の無い事でも上から指示された事は無難にこなす。答えのあることしか教えず、クリエイティブな発想は必要としない。その結果、最適な組織人が生み出される。東大とハーバードという、日米両国のトップスクールを出ている彼の言葉は説得力がある。
3. ハングリー精神の欠如 – 失うものが多すぎる (錯覚)
最後の理由として、精神面が上げられる。
戦後はやはり貧しい環境であった為に、若者達はハングリー精神が旺盛だった。また、敗戦国ということもあり、いつかは世界に出て、見返してやろうという思いもあったのかもしれない。
もしかしたら、当時の起業家達はその当時の経験を糧にして、現代人には無い屈強な精神力によって数ある困難を乗り越えて来たのかもしれない。
正直なところ、非常に理知的、理論派で沈着冷静な彼がこんな事を言うのは驚きであった。
でもやはりビジネスに於いて最後の勝負を決めるのは精神力なのだろう。おそらく” Made in Japanのプライド” もあったのかもしれない。その当時の感覚だと、日本の家電メーカー勤務の人間が、同業他社のApple製品を賛美するような事はありえないのかなと勝手に想像してしまった。
こうすれば世界に通用する起業家が出てくる (かも)
日本からの学生やインターン、入社するスタッフをを見てると。非常に優秀だと素直に感じる。もしかしたら、偶然優秀な方々に巡り会えているのかもしれないが、アメリカのスタッフですら、”世の中の風潮と違って、日本の若者も捨てたもんじゃないね” という。
同時に、やはりその優秀な若者が、グローバルで活躍出来る環境がどれだけ与えられているかは正直疑問である。国内では優秀な起業家でも、グローバル目線で見るとそうでないこともあるかもしれない。その為には何かを変える必要がある。
具体的に下記のポイントが改善されていけば、自ずと世界で活躍できる起業家が出てくるような気がする。
- 会社を興すリスクに対するリワードをアップさせる: 大型M&Aが増える。失敗しても何度もチャレンジできる環境など。
- グローバルリーダーを育てる仕組みの充実: 学校教育や、起業家プログラム
- 英語でコミュニケーションが取れるようになる: 中学校で学ぶ単語だけでもどんどん会話をする
- 世界で活躍するロールモデルを作る: 国外で活躍している起業家の存在を知るきっかけを作る
言うは易しであるが、やっぱり優れた起業家がグローバルな舞台で活躍出来るような環境が整えばと切に思うし、自分として、会社として何か出来ないかを真剣に考えたい。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.