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チャットボットのUX設計 開発の実験を通してわかったこと
世界中でAIが注目を集めているのは言うまでもないだろう。2017年の注目ワードであるAIだが、AIのビジネス活用方法は未だ発展途上である。そんな中シリコンバレーにいる日本人が先駆けて、AIを使用したチャットボットをビジネス用に開発した。今回は、その実証実験を行って得た気づきや今後のボットの在り方について、対談形式でご紹介したい。
今回の対談に参加して頂いたのは、こちらの2名である。
- Kazuya Komon, Vice President, ISID America
- Brandon K. Hill, CEO & Founder, btrax
チャットボットのUX実証実験について
目的:海外旅行者向けのチャットボットを開発し、ユーザー行動をUXの観点から検証
期間:2017年1月23日~1月27日
内容:開発したチャットボットをユーザーに使用してもらい、使用方法についてのアンケートやフォーカスグループを行った。
※実証実験に関するプレスリリースはこちらから。
関連記事:チャットボット (Chatbot) とは? 【ChatBot入門編】
チャットボットに携わるようになったきっかけ
新しいタッチポイントとしてのチャットボット
Brandon: UXを扱う会社としてボットを扱うのは必須だと思いました。UXデザインにはタッチポイントを考えるっていう手法があります。ユーザーはウェブサイト、メール、店舗等様々なタッチポイントを持っています。
つまり、UXデザインではユーザータッチポイントを網羅して設計することが重要です。だからこそ、新しいタッチポイントの出現はUXのデザインに取り込むのが自然であったし、新たなタッチポイントとしてチャットボットがどこまで可能性があるのかを探りたかったのです。
Kazuya: 去年の4月のF8のカンファレンスでボットのプラットフォームの発表を聞いたことが興味を持ったきっかけです。あの発表の後3カ月で2,000くらいボットが作られて半年後にはもう10,000ぐらいまでになっていました。当然作っては消えたりしていますが、みんながチャットボットを作り始めました。
技術者がボットを簡単に作れる環境が整いつつあったので、私のチームで研究することにしました。実は個人的に最初はボットへの期待値はあまり高くなかったのです。でも世間がAIやボットで騒いでいたので、まずは始めてみました。実際作ってみたら簡単に作れたので、もう少し人に見せられるものを作りたいと思い、サンフランシスコ市内にあるショッピングモールのWestfieldの案内ボットを作りました。
案内ボットの中で凄く面白かったのが、その人のプロファイルがプライバシーに配慮しながらもある程度、メッセンジャープラットフォームを通じてわかることです。例えば使用言語・タイムゾーンだったりという情報を集めることができるのです。個人のプロファイルと実際その人がどう行動したかという行動データがログとして取れるということで興味を持ち始めました。
UX設計の実験を通して気づいたこと
UXを学ぶ素材として最適
Brandon: ボットはすごく簡単に作れるものなので、UXやデザイン思考を用いるのにベストな素材です。今では多くのプロダクトが技術中心からユーザー中心に変化している時代になってきていますしね。
ボットを作成する際まずは簡単なプロトタイプを作り、そのあとに情報を出す順番、プッシュ通知、言葉尻などの変更を加えていきます。だからこそ、UXデザインを学ぶのにチャットボットは一番いい素材なんだと思います。
Kazuya: ボット開発において技術的観点から言うと、ボットの特性と開発技術の発達の2つのポイントが挙げられます。
- ボットの特性というところで、ボットはほとんどUI層の開発を考える必要がないのが非常に楽です。システム開発はサーバー側とクライアント側(webなどのUI層)の両方を考える必要があり、今までは特にクライアント側のシステム開発が複雑になるケースがありました。しかし、ボットはコマンドプロンプトみたいなものなので、シンプルになります。
- 技術発展に関して端的に言うならば、クラウド系ツールの充実性が挙げれます。サーバ・自然言語解釈を含むボットエンジン・データ分析プラットフォームなど、諸々がSaaS型で用意でき、つなげることができます。また、開発プラットフォームが全体的に非常に進化したおかげもあって、全てのモバイル系等で開発がスピーディーにできるようになりました。
関連記事:チャットボット (ChatBot) におけるUXデザインのポイント
上の図は、今回の実験で開発したチャットボットのインターフェイス
【プレスリリース】 JCB とISID、AIを活用したチャットbotによる海外ガイドを開発
チャットボットについて考えられる仮説
情報はダイレクトに
Brandon: 最初の仮説と実際にやってみるのはやっぱり全然違いましたね。最初はWestfieldでのナビゲーションを使わせるというのを最終目標として考えていたので、店舗に行くまでの順序を丁寧に説明していましたが。このやり方では通用しないことがすぐ分かりました。
そもそもユーザーがWestfieldに行く欲求がない限り店舗を調べるなんてことがなかったからです。そこでWestfieldに行きたなるように設計し直したのです。『こんないいおが店ありますよ!』と伝えることで、ユーザーにお店に行ってみたいと思わせる試みをしたのです。ユーザーがコアな情報に一瞬でたどり着ける”end to end”でのアクセスを求めていたので、それに沿うように設計しました。
プッシュ通知機能がコンバージョンに結びつく
Kazuya: ただ、そこで情報のダイレクトアクセスをし始めると情報の網羅性ができないのでは、いう不安が出てきました。なので、今回はインスタグラムのような写真を使って、写真で情報の一覧を表示する+マップでの表示、で網羅性を出すことにしてみました。
結果のログでどの通知が最も使われたかを調べてみると、写真一覧はそれなりに見てもらえることが分かりました。ただ一方で、一番コンバージョンに結びついてるのがボットでのプッシュ通知でした。プッシュ通知から、実際にお店に行くまでの道のりを調べる人が一番多かったのです。
Brandon: そこは皮肉なところでよく言われるパレートの法則みたいですね。実際に使われる機能の8割は機能全体の20%しか使われておらず、設計に時間をかけたものよりも、プッシュ通知の方が良く使われることがわかりました。
Kazuya: 今回ボット開発に携わって分かったことは大きく2つあります。まずレイヤーは深くしても使わないから浅くて良い、そしてもう1つはボットのプッシュ通知を有効に使うことで興味深いエンゲージメントを得ることができることです。
Brandon: ユーザーとしてもリマインドが来ると有難いから、ユーザー目線からしても運用者目線としてもリアルなプッシュ通知が命ですよね。
関連記事:シリコンバレーでボット (bot) が注目されている理由 ヒントは人工知能
ボットの将来性について
ボットがアプリウェブを駆逐する世界は到来しない
Brandon: ボットは狭く深く必要とされるテクノロジーです。ユーザーのタッチポイントのバリエーションは少ないけど最適な答えを出せる開発が重要になってきます。ボットは検索エンジンみたいに使われる為ベストな答えが必要とされ、ユーザーのわずかな行動に対してもきちんとした返答が求められます。
ボットを作るのは簡単なのですが、正しいものを作ることは難しいです。そのため、機能を限定しユーザーに無駄な体験をさせないことが重要になります。最初のUX設計がどんなアプリよりも重要になってくるのでしょう。
Kazuya: 限定させる、という意味ではボットがウェブやアプリに完全に置き換わるはないと感じています。AIが完璧になったらボットが何でもできるようになるかというと、技術的に飛躍的な複雑さになり、UXもさらに難しくなると思います。
ボットの強みはリアルタイム性とカスタマイゼーション
Brandon: UX的に考えるとボットの強み弱みが分かりました。まず強みは2点で、リアルタイム性とカスタマイゼーションが技術的に可能であるところ。これはアプリやウェブではあまりカバーできないので、対話型にしてパーソナルな情報が押し出せるのが強みだと思います。
弱みは、アプリ・Googleができることをやっても勝つことはできないこと。あくまでも割り切ってできることだけをするのが重要です。作る側からのメリットはUI設計がいらないことが非常に楽ですよね。普通のアプリの100分の1くらいで作ることができますし。
UIを設計する必要がないということは、ユーザーにUIの使い方を教育する必要がないということです。なので、オンボーディングが簡単にできます。メリットはそのまま使えることですが、デメリットはボットが普段と同じ使い方を期待されるために、それでレスポンスがないとがっかりされてしまうこと。
なので、いい意味でも悪い意味でもボットの領域は限定的です。限定された中でデザイナーもエンジニアも最大限何ができるかを考える必要があります。
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チャットボットの開発に必要なことは
ユーザーの視点で開発することが重要
Brandon: 目的が非常に重要なので、「とりあえずボットを作ってみよう」と行動するのは避けたほうがいいでしょう。練習としては良いですが、使ってもらうボットを作るのであれば、作る前にユーザー視点で開発することが重要です。
ウェブサイトやアプリだとすぐに作り始めることもできますが、ボットの場合は手を動かす前に頭を動かす必要があります。しっかりユーザーのことを考えてから作らないと全く使ってもらえないボットになってしまいますので。
Kazuya: ボットは意外に奥深いですよね。開発するだけなのであれば、綺麗なソフトウェアアーキテクチャーなどにこだわらずとも、それなりに動くものはできます。ただし、今後音声インターフェースなど様々な面でボットの可能性が広がり、サードパーティーと連携して動くようになると思います。また、もちろんスクリプトも開発者の手を介さずに簡単にデザインや変更できるべきであり、それらを考え始めるとボットは更に奥深いものになるのではないでしょうか。
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