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【後編】ベイエリアの日本人起業家が語る次世代のIoT -「部品供給者」の枠を超えてモノづくりを提供する
前後編にわたってお送りしている、5月18日D.Haus開催のIoTトークセッション内容。前編に続き、後編となる本記事ではIoTのトレンドとなりつつある「声」での製品コントロールと日本でのIoT開発の難しさの2つのテーマに注目してお送りする。
「声」が予想以上に浸透し始めている
声と「何か」でIoTの利用価値はさらに増す
ーIoT製品のコントロールは指から声に?
本間:声を扱うのは非常に難しくて、そもそもデバイス上でマイクとスピーカーを同じところに付けるっていうのは非常に難しいことなんですよね。自分が話した声を相手のマイクが拾ってしまうのでキャンセリングしないといけません。あとは例をあげると、掃除機をかけながら「Alexa」と言ってもうるさくて反応してくれないですよね。生活の雑音の中から聞き分けるという作業はすごく大変で、これ自身もイノベーションが詰まったものだと思っています。
シリコンバレーでも実は「声」が思ったよりも使われるようになって驚いている、というのが現状です。声が広がった理由の一つには、Alexaのプラットフォームを皆が使えるようになったことがあると思います。1月にラスベガスで行われたCESに参加された方はご存知かと思いますが、LGの冷蔵庫もAlexaを使えるようになっています。Alexaを広めることで、集めた声のデータはすべてAmazonのクラウドに行くようになるので、結果的にAmazonのクラウド企業としてのアドバンテージがより増す、ということになりますね。
ユーザー視点で行くと「指から声に」という表現はちょっと違うと思っていて、正確には「指と声に」だと思います。声があるから指をやめました、ということではないのです。
私は自分の寝室にAmazon Echoを置いて、「Alexa, Turn off the light」といって電気を消すようにしていたのですが、一緒に寝る家族にとってはうるさくて毎日は続かないんですよね。なんでも声で完結するということでもないので、声と「何か」がないと成り立たないかなとは思っています。
Alexaが一番使われている場面は、音楽を聴くときだと聞いたことがあります。あるアメリカの家庭で音響設備を整えた家を作り、その家のおばあちゃんに「このスマホで操作すればいつでも音楽が聞けるよ」と教えたんですが、よく使いこなせなかった。でもスマホを取り除いてそこにAmazon Echoを置き、「おばあちゃん、こいつに向かって音楽かけるように言うだけでいいよ」と伝えたら、そこから毎日使うようになった、と言う話もあります。インターフェイスが変わるとそういったことも変わるので、声は誰にでも一番優しいものかなと思いますね。
三浦:声が活きる場面で言うと、例えばお皿を洗っている時もそうですよね。UI/UXの話にもなってきますが、声が一番適切な時もあるし、そうでない時もあるので、使われる状況を想定することが重要になります。
私の妻が家でやっているのは、『The Magic Door』というストーリーテリングのゲーム、昔あったロールプレイングゲームみたいなものです。Amazon Echoが「あなたは今、森の前に立っています。どちらの方向に向かいますか」「何色の箱を開けますか」などの質問をユーザーに問いかけて、それに対する応答次第で展開が変わる、というところに面白みを感じています。最近ではAmazonが提供するツールでこのようなストーリーテリング型の冒険ゲームも自由に作れるようです。
ボイスコマンド自体は実は昔からありますし、今ではカーナビでもありますが、それが出た当時は「声で」と言うところでイメージが止まっていたのだと思います。つまり指でできることを声でもできるようにしただけで、声だからこそ、と言う場面で活きていなかった。面白いから一回はやってみるけど、大半が続かなかったのはそのためだと思います。
他の問題点を挙げると、アクションを起こさせるにはなんて言ったら良いかわかっていないといけないというもどかしさがあるところです。自分の声で反応させるにはどのようにコマンドを言えばいいのかを知って習慣にしていないといけないので、目に見えないインプットをどのように浸透させるかというのは大事なポイントです。
ブランドン:日本だとボイスコマンドを使わないイメージがありますね。日本からサンフランシスコに来られる方がいつもびっくりしていることですが、道端で叫びながら歩いている人をこちらではよく見かけます。イヤホンで喋っている人が多くて、そんな人が後ろが近づいて来るわけですから、それを知らずに歩いている日本人からしたらびっくりします。声を出すことに関しての恥ずかしさはこちらに住んでいる人にはないですよね。
日本だとエレベーターでも「お静かに」と張り紙があるぐらいなので、人前でむやみに声を出すことにはまだ非常に敏感になっていると思います。だから日常習慣的に声で何かを命令するというのは日本人にはまだ壁が厚いような気がします。だったら無理してでもいいから指でやってしまおうという気になりそうですね。
覚えている方もいるかもしれませんが、初期のファミコンも1コントローラーと2コントローラーの2つがあって、2コントローラーにはマイクが付いていました。『たけしの挑戦状』や『ゼルダの伝説』のようなゲームでは声を入れると何かが起きる、という隠しコマンドがあったんですけど、あまり使われなくなって数年後には声にフォーカスするゲームなんてなくなってしまいました。
(写真はミドルエッジの記事より引用)
本間:これから日本でGoogleやAmazonがボイスコントロールを浸透させようとしていますが、声を出すことの恥ずかしさがここで一番引っかかると思います。家でもそうですけど「◯◯、なんとかしなさい」だとヒーロー戦隊的になって「出動しなさい」みたいになってしまいますよね。
ブランドン:英語でやるとかっこいいけど日本語でやると途端にダサくなったり、恥ずかしくなったりしますよね。言語的に日本語ってインプットするのも難しいと聞いたこともあるので、そこも課題になってくるのかなと思います。
日本でのIoT製品開発の難しさ
リスクをとって、「部品供給会社」としての枠を超えていく必要がある
ー日本でIoT開発はまだ難しい?
ブランドン:日本はレギュレーションがとにかく厳しいので、まずはここから変えていったほうがいいですよね。今ならアメリカ来てやったほうが早いかもしれません。
三浦:ドラマ『下町ロケット』の第2部でやっていたように、役所に全部止められてとか、ヘルスケア製品でも大手の製薬会社と組んでないとダメだとか、産業を発展させるのに日本はなかなか厳しいですよね。こうしているうちに高性能センサーを作ってる日本の会社がアメリカやヨーロッパの会社のパーツのプロパイダーで止まってしまうという可能性はあります。
ブランドン:そういった相談はうちでも本当に多くて、日本の事業会社がこっちのスタートアップと提携して進めたいんだけど、どうできるかと相談されるんです。そして色々聞いてみると、プロダクトづくりにおいてエクスペリエンス重視と技術重視で意見が分かれたり、社内政治が面倒で規制も強いと言ってできず、それを避ける形でサンフランシスコのスタートアップとオープンイノベーションでやりたいとなるんです。
「ではスタートアップにとってインセンティブとかはありますか」と聞くと「技術力がある」というところに行き着くんです。スタートアップにとってそれはありがたいことなんですが、これ実は最終的には部品の供給会社なんですよ。世界で売れる製品を作れる可能性があっても、スタートアップにとってのベンダーさんになってしまうのは非常にもったいないと思います。こっちのスタートアップと組んでやるメリットは多少はあると思うのですが、どんな役割を担っているのか見ていくと、結局は部品供給側になってしまうんです。
三浦:別にそうなることは悪いことではなくて、むしろ圧倒的にどこも作れないものを作り続けるベンダーになることはとても誇らしいことです。それこそファスナーとかYKKから出ていますし、そういう世界で活躍するのも素晴らしいことだと思います。
ただ、最近教訓だなと思ったことがあります。イギリスにImaginationという、iPhoneなどの画像処理に使われているGPUの設計会社があって、彼らの総売上高の6割はAppleからのライセンス料だったんですが、今年4月にAppleが「自分たちでGPUを作るからいらないよ」となって株価が急落したんです。今までエンドユーザーと線を持てないビジネスをずっとやってきた分、他で作る、もしくは内製化となると途端に窮地に立たされてしまいます。そういう意味で、持続的に成長することができないという点では不安がありますよね。
(左写真はiDBより引用)
本間:シリコンバレーの人の肩を持つわけではありませんが、今の話を聞くとAppleずるい、とかGoogleいいな、みたいになりかねませんが、それは半分違うと思っています。というのも、日本の会社はリスクをとって新しいプロダクトを作り続けたり、投資をしたり、ということをここのところ少し避けすぎてきたな、と思うこともあるからです。
日本ではガラケーを自分のところでやる分にはやっていましたけど、スマートフォンが出てきたときに、「まったく別種類の携帯電話」が登場したという衝撃がありましたよね。Appleはもともとアメリカの会社でそれこそいいものを作り続けて投資を続け、iPhoneを始めとする製品を出すことに成功しました。
それに関して、Samsungなんかも積極的にリスクをとってきて、今ではiPhoneに匹敵するスマートフォンの供給会社となっています。それに対し、日本の会社はガラケーだけでは儲からないから合併しよう、撤退しようと逃げていってしまって、結果的に大きな遅れをとってしまいました。
私たちがサンフランシスコ・ベイエリアに身を置くのは、そういったリスクをとる姿勢を追求していきたいからなのです。
ー最後にスピーカーおすすめのIoTショップは?
本間:パロアルトにあるb8taに行くと常に新しいIoT製品をみることができますね。特にIndiegogoやKickstarterで出たばかりの商品を手にとって触れることができるので、定点観測的に行くと常に新しい製品のリサーチになると思います。
三浦:あとはみなさんご存知かもしれませんが、先日二子玉川にある蔦屋家電に行ったときにはアメリカにあるどのリテールショップよりもすごいと思いましたね。もし行かれたことがなければぜひおすすめします。
三浦さんのHale OrbがIndiegogoにて5月31日にローンチいたしました。詳細はこちらよりご確認ください。