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【前編】ベイエリアの日本人起業家が語る次世代のIoT – AIの駆使と徹底したセキュリティ管理でIoT本来の価値を見出す
今年も最新テクノロジー関連のカンファレンスが多数開かれる時期となり、先月5月もここサンフランシスコ・ベイエリアではGoogle I/OやInternet of Things Worldが開催された。弊社が運営するコワーキングスペース、D.Hausではそれに合わせ、ベイエリアにてIoT開発に携わる日本人起業家2名をお招きし、最新のIoT事情に関するトークセッションを行った。本ブログではその一部分を前後半の記事に分けてお送りする。
本記事では、「時代が終わった」ともされるIoTの最近の動向に着目し、そこからIoTが集める膨大なデータの活用方法とその管理におけるセキュリティにフォーカスする。
イベントスピーカーの紹介
本間 毅氏
1995年中央大学在学中にインターネット系スタートアップのイエルネットを創業。売却後、2003年ソニー株式会社入社後、ソニー米国子会社のVice Presidentを経て、2012年楽天株式会社執行役員に就任。2015年からRakuten USAの事業開発責任者としてシリコンバレーでの案件発掘に注力。
2016年シリコンバレーにおいてHOMMA, Inc. を創業。米国の住宅をターゲットにスマートホーム関連のビジネスを準備中。
三浦 謙太郎氏
日本のソニー株式会社でVAIOノート商品企画担当としてキャリアをスタートし、2011年にDouZen, Inc.を米国にて起業。現在はハード・ソフト・サービス統合製品であるHale Orb の開発中。5月31日より1ヶ月間、Indiegogoにてクラウドファンディングプロジェクトを実施中。
在米歴は幼少期・学生時代も含めてトータルで24年間。スタンフォード大学理学部卒。ULCAにてMBAを取得。
ブランドン・ヒル
サンフランシスコ州立大学デザイン科卒。サンフランシスコに本社のあるエクスペリエンスデザイン会社btrax CEO。日米の企業に対してブランディング、グローバル展開コンサルティング、UXデザインサービスを提供。
経済産業省 : 始動プロジェクト公式メンター、サンフランシスコ市政府アドバイザー。
IoTは取得したデータの使い方が鍵になる
データを持っているだけで可能性を感じる時代は終わり
ーIoTの熱が落ち着いてきたように感じるが、時代が終わったということか?
本間:IoTの時代が終わるというよりは、IoTが目的だった時代が終わるということだと思います。つまりネットに繋げることが目的で、「そこにスマホのアプリが付いているといいよね」という時代はもう終わったということ。そこはもう当たり前になって、IoTは目的から手段になったのだと思います。アメリカでは、IoTという言葉はもうほとんど聞かないですよね。
三浦:まずは「ネットから繋がらないと始まらない」という時代があり、繋いで終わり、ということが多かったんですが、繋ぐことが目的ではなくて顧客に価値を届けるということが重視され始めたんですね。このような新しいビジネスモデルはデータ収集とか通信、ネットワークにデータを送るのにかかるコストが安くなったからこそできたのかなと思います。「IoTをやろう」という言葉は今ではナンセンスかなという気がします。
ブランドン:2000年以降に生まれた人に対して「パソコンや電話は以前はインターネットに繋がれていなかった」と言ったら、「何のために存在していたんですか」という反応になりますよね。今のIoT製品も同じようなことで、インターネットに繋ぐことで初めて威力を発揮するものであり、さもなくば価値がないぐらいに思われる段階にきているのだと思います。これまで作られてきたIoT製品の80%ぐらいのものは繋げてもしょうがなかったという結末に終わったので、「IoTの時代は終わった」という人が出ているのではないでしょうか。
ーではインターネットを繋いで得たデータの活用が大事になってくる?
本間:以前アメリカのメディアで見ましたが、データはこれからの時代の石油になる、と言われています。しかし、その石油の使い方は重要になってきますよね。
日本でも江戸時代に実際に石油が出ていましたが、当時は「なんだこの泥水は」と誰も相手にせず、むしろ邪魔な存在でした。しかしながらその後石油を使って照明が灯ったり、燃料になって車が走るようになって、ものすごい価値を持つようになりました。
今のデータもまさにそれで、その活用方法がわからなかったらただのデータなんですよね。それを加工して何か使えるようにすることで、初めて価値がでます。現段階ではそのデータを「何かに使えそうだ」と皆が気づき始めていて、誰がどのように使える情報に変えるかという活用方法を見ている段階ですね。だからデータを売買する前に、買ったデータを使えるようにすることが先なのではないかと思います。
三浦:とにかくデータを集めて持っているだけで可能性を感じて価値とされていた時代もありましたけど、今ではそれをうまく活用できていないと厳しいですね。
健康状態を記録するFitbitという製品の後追いで生まれたMisfitという製品があります。その製作に携わっていたことがあるのですが、当時より万歩計みたいなものに近くFitbitに対し、彼らのゴールは「俺らだったらもっとかっこよくて、靴のソールやシャツとも連携させる」というビジョンを持って体のあらゆる動きを数値化してデータを集め、より高い価値を見出すことでした。
その結果、有名なVC達からも資金を調達することができ、Misfitはデザイン性の高いブランドとしても良いポジションを築いて、2015年にFossilという時計会社に1億6000万ドルで売ることができました。あれは素晴らしいタイミングで、あと半年逃していたら10分の1になっていたかもしれません。
このように目新しいウェアラブル製品を作り、データを集めて、何か使えそうだよね、と期待が高まった時代があったのは事実です。しかし結局集めただけでデータがどうにかなるということもなく、使えずにそこまで価値を産むこともなかったというのを一巡したところが今で、とりあえず集めればなんとかなるというフェーズは終わったかなという気がします。IoT製品はビジネスモデル込みで考えるべき、ということがわかってきたのはここ2年ではないでしょうか。
ブランドン:データの活用法という意味では、それこそ2012年頃だと「データサイエンティスト」という言葉もバズワードになり、それを名乗る人も本当に増えましたね。AIやラーニングを駆使して、データの活用方法を模索しているのが今のシリコンバレーでの過程段階かなという気がしますが、本間さんのチームではAIを使ってますか?
AIを駆使してIoTの本来のスマートさを導き出す
本間:最近では何でもかんでもAIとすれば済むという節があるので、私のチームではAIという言葉を使わないようにしています。もしAIが「自律的な判断をして、人間がわからなかったものを導き出すこと、もしくは人間の代わりに判断を下すもの」という意味で使われているのなら、それは私たちがやっていることです。
IoTとの連携という点では、AIの意味は2つあると思っています。IoT自身がセンサーの役割を果たしてデータを得たあと、その膨大なデータから傾向を洗い出す部分と、スクリーン表示などを通して、人間に対してアクションを起こすようなアウトプットを出す部分です。
逆にいうと、人間がエアコンのリモコンである黒い棒をスマホに替えて、オンオフや調整ができると言っているだけではまったくスマートでも何でもありません。むしろ、自律的にシステムが判断したり、人間の好みや行動パターンに合わせて自動的にコントロールしてあげる、というのが本来のAIです。それとIoTが連携するということで、IoTが本来目指しているスマートさが実現されるのではないかなと思います。
これからの経営者はある程度ITに精通している必要がある
Internet of Threadと呼ばれるぐらい、IoTはデータをどんどん収集する
ーデータの活用が鍵になる今後、日本企業のデータ活用とセキュリティ問題は?
本間:日本企業に勤めていたことがありますが、日本とアメリカで一番違うのは、IT系のリソースをどのように保持して使うかという点。これがすべてに影響を及ぼしていると僕は思っています。
日本の企業は、例えば銀行なんかはシステム部門を全部外注しますよね。アメリカでもこのような形式はないことはないんですが、基本的にプログラマー、エンジニア、デザイナーを全部インハウスで自社の社員でやることになります。そこまで一体化してビジネスを構築していくんですよね。ですが、日本だとシステム部門を外に丸投げするので、外で情報が漏れる確率も自然と高くなるのです。
さらにもう一つ問題なのが、外注することで社内にノウハウを貯めていくことができない点です。特に小さい会社はシステム予算が取れないのでできません、なんてことも起きます。そうなるとデータの活用以前にITそのものへの認識が違う、ということになりますよね。アメリカと日本の経営者の違いの一つは、トレンドのことも含めてITのことをどの程度理解しているか、だと思います。
三浦:セキュリティ問題はIoTの中でもかなり無視されてきた問題かなと思います。Internet of Threads(脅威)なんてことも言われるぐらい、ダダ漏れなんですよね。
そのため、例えばアメリカでも医療業界の場合、データ管理の非常に厳しい法令が出ています。データ漏洩がただ怖いからIoTには取り組まないとなるとIT化が遅れてしまいますし、そこをケアしないと大切なデータは簡単に漏れてしまいます。セキュリティの高さとかかるコストはどうしてもトレードオフですが、経営者がそれに十分に理解を示す必要があると思います。
ブランドン:保護しなければいけない情報を最小限に抑えることも重要ですよね。アメリカだと製品やアカウントの登録の時に聞かれるのは名前とメールアドレスと電話番号ぐらいです。しかし日本ではそれ以外に年齢や性別、会社や職業、肩書きまで聞いてくることもまだ多くあります。日本も個人情報保護法はありますが、必要なデータを集めて上手に管理するようなシステムを作るにはこれからもかなりの努力が必要な気がします。
ー後編に続く
三浦さんのHale Orbがクラウドファンディングサイト、Indiegogoにて5月31日にローンチいたしました。詳細はこちらよりご確認ください。