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Web開発者に試して欲しいIoTプロトタイピングキット8選
2015年の終わりまでに49億のデバイスがインターネットに繋がり、この数字は2020年までに250億に増えると予測されている(Gartner)。爆発的に普及するこれらのデバイス、IoT(Internet of Things)が社会を大きく変えていく中、その開発者数も急速に増えると考えられる。
普段WebやMobileを開発している人で今すぐIoTを作り始めたいと思っている人も多いだろう。誰でもIoTプロダクトを開発できるキットとしてArduinoやRaspberry Piが有名だが、最近ではWeb開発の要領でIoTのプロトタイプが作れるようなツールがクラウドファンディング等を通して誕生し始めている。
IoTプロトタイプを開発する際、第一に障害となり得るのは電子工作経験の欠如だが、これらのキットは電子工作の経験が無いカジュアルな層を対象にしているものが多い。ここで紹介するキットを使用すれば、ハードウェアに疎いチームやソフトウェアエンジニアでも、ヒットするIoTプロダクトを開発することが出来るかもしれない。
これらの8つのキットは全てスタートアップからのプロダクトで、どの企業も「高度な知識がなくてもIoTプロダクトを簡単に開発できる未来の実現」を目指していることがわかる。本記事では、これらのスタートアップを軸に、台頭しつつあるIoTプロトタイピングに適したツールを紹介する。
1. レゴを組み上げる感覚で作れる LittleBits cloudBit
レゴを組み上げる感覚でIoTプロダクトを製作出来る、オープンソースの電子キットで、LittleBitsから2014年7月に販売開始された。センサーやモーター等の単位で提供されているモジュールを磁石を使って非常に簡単に接続する事ができ、それらを上手く利用すれば既存のネットに繋がっていない電化製品をIoTプロダクト化する事も可能だ。IFTTTとも直接接続出来るので、日常的に使っているWebサービスと連携したプロダクトを作る事が出来る。
ArduinoやRaspberry Piで回路を組み立てるのが敷居が高いと感じている人や、シンプルなデバイスを時間をかけずに作りたい人にとって特に重宝するプロダクトである。さらにArduino moduleを使用すれば回路をプログラミングすることもできる。3千ドルのPro kitも存在しており、CEOであるAyah Bdeir氏のWIREDやengadgetのインタビュー記事によると、Google XやIDEO、Techstarsで使用されているとのことだ。
LittleBitsは先月にシリーズBラウンドとして4420万ドルの投資を受けたばかりであり、ハードウェア技術を民主化することをミッションに設定している。cloudBitのStarter Kitは、公式サイトやAmazonで99ドルから購入する事ができる。
“「我々のやりたい事は、トップダウンで支配されているものから、誰もが招待されるようにハードウェア業界を覆すことだ」”
とLittleBitsのCEOであるAyah Bdeir氏は語っている。
2. ワイヤー無しでプロトタイピング SAM
ロンドンのスタートアップSAM Labsが発表した開発キットで、Kickstarter上で12万5千ポンドの資金調達を完了している。モジュール同士を繋ぐワイヤーが無いのが特徴で、ブロック間の通信はBluetoothで行われる。ユーザーはコンピュータ上もしくはモバイル端末上で、ドラッグ&ドロップによって直感的にプログラミングを行う事が出来る。
モジュールとしては各種センサーの他にサーボモーターやスイッチ等があり、リモートで通信させるために必要な”cloud module”を使うためには”Pro”キットの購入が必要だ。
FounderであるJoachim Horn氏は、techcityukへの寄稿記事内で「AppleがPCに対して数十年前に行ったように、電化製品の開発とコーディングをシンプルにしたい」と述べている。
購入は公式ストアから可能で、一番安い”Explore kit”が139ドル、”Pro kit”が519ドルで販売されている。
3. センサーモジュールを切り取って貼るだけ Wunderbar
https://www.youtube.com/watch?v=mmLY7sOssg0
ベルリンに拠点を置くスタートアップRelayrから販売されているキットで、文字通りチョコレートバーのように7つの小さなモジュールがタイル状に付属されている。ユーザーはiPhone / Androidの専用アプリを用いて、デバイスをWifiに繋ぐなどのセットアップを行う。一度ネットに繋がると、relayrが提供しているクラウドや、関連するAPI・フレームワーク、モバイル用のSDKを用いてデバイスのプログラミングをすぐに開始する事が可能。
co-founderのJackson Bond氏はTechCrunch記事上で、アプリ開発者はハードウェアに苦戦するという点を指摘した上で「我々のStarter kitは、始めるにあたってハードウェアの知識が全く必要が無く、数多く存在するアプリ開発者のために(IoT開発を)簡単にしている」と語っている。チョコレートバーから切り取れるセンサー群の利用方法は非常に明快で、エンジニアに限らない幅広い層に受け入れられていくかもしれない。
現在、公式サイト経由でアクセスできる販売店から入手出来、価格は199ドルと設定されている。
4. ブラウザ上だけで開発を完結できる WeIO
https://www.youtube.com/watch?v=H9N4GPbmjwE
Wifiに繋いで動作するデバイスを、Webブラウザ上で簡単に製作出来るのがWeIOだ。フランスのnodesign社からのプロダクトで、Indiegogo上で約3万7千ドルの資金調達を終えた。
ハードウェア・ソフトウェア共にオープンソースのボードで、GitHub上で詳細を確認出来る。ソフトウェアをインストールする作業を全く必要とせず、ボードの電源を入れた後は、PCやスマートフォンからWifiで接続してブラウザ上でセットアップを完了できる。開発もブラウザ上で動作するIDEを使用し、Javascript / Python / HTML5でプログラミングを行うことが出来る。Webアプリのコードを書き終えた後は、ブラウザを使用できる端末ならどこからでもアクセスしてボードを操作することが可能だ。
公式サイトで“WeIO is made for the lazy ones ;)”とあるように、Linuxや低級なコードを学習する必要が無いのが大きなメリットで、ウェブサイトを作成する要領でIoTデバイスのプロトタイプを製作できる。
フランス以外からの購入はWeIOが販売を委託している8devicesから可能だが、現在は売り切れているので再生産を期待したい。
5. ビルトインのセンサーをすぐ利用できる Thingsee One
Thingsee Oneは複数のセンサーと通信機能がコンパクトにまとめられたデバイスで、元Nokia社員達が創業したフィンランドのスタートアップHaltianによって開発された。
GPSや加速度計などに加えて気温・湿度計、圧力センサー、周辺光センサーが埋め込まれており、提供されているモバイルアプリから特定のセンサーの情報を確認することができる。
ソフトウェア開発者でなくてもデバイスをカスタマイズして利用出来ることが特徴だが、SDKが提供されているので、Web開発者であれば自分で専用のウェブアプリを作るといったユースケースが考えられる。公式サイトによるとバッテリは1年持つので、屋外の利用に最適だ。
Thingsee OneはKickstarterにおいて 約10万4千ドルを達成しており、公式サイト上でのβ版のプリオーダー価格は299ドルだ。
6. Raspberry PI + タッチスクリーン + Javascript実行環境 Kinoma Create
タッチスクリーンが特徴的なIoTデバイス開発キットがKinoma Createだ。2014年にKinomaのチームによってindiegogoに立ち上げられたプロジェクトで、目標額を上回る約5万2千ドルを達成した。
Wifi・Bluetoothをデフォルトで搭載しており、電源をリチウムイオン充電池としている。Javascript実行環境を持ち、専用のIDEによって開発出来るので、Web開発者などハードウェアに詳しく無い人でも気軽にスタートしやすい。
オープンソースのKinomaJsフレームワーク上でNode.jsのようにサーバーアプリケーションを簡単に動作させる事が出来るという所も長所の一つだ。
また、タッチスクリーン付きである事から、スマートフォンアプリを開発するような感覚で電子工作に馴染む事が出来るのが魅力的である。
Kinomaは2002年に元Apple社員であるPeter Hoddie氏によって創業され、2011年にMarvell Technology Groupから買収されている。SparkFun上で1セット149.95ドルで購入可能だ。
7. Web IDE + Restful APIな Particle Core/Photon
https://www.youtube.com/watch?v=VFsOft7MT4Y
Particle Core及びParticle Photonは、共にハードウェア系スタートアップであるParticle社から販売されているマイコンチップだ。Photonは、Kickstarterで約56万8千ドルを調達したParticle Coreの後継モデルであり、価格が19ドルと安い。Wifiに接続出来るのみでなく、クラウドから無料のAPIを使用してデバイスを操作するのに使う事も出来る。
設定は、スマートフォンの専用アプリから簡単に行うことが出来、一度無線LAN等の設定を行った後は、Web上のIDEからプログラミングを行ってデバイスを動作させる事が出来る。
ボードごとに固有のURLが発行されており、ParticleのAPIはそれらを利用して個々のデバイスにリクエストを送る仕組みだ。Arduino互換であるので、Arduinoで定義した関数をそのまま実行する事も可能。Raspberry PIのようにパフォーマンスが要求される用途にはあまり向かないが、PubnubのようなPaaSを利用したり、ルーターを自分で設定したりする手間を省いてすぐにコードを書き始めることができる。
8. 多様な言語で開発できる Onion Omega
Onion OmegaはArduino / Raspberry PiやParticle Coreの長所を組み合わせたようなボードで、IoT製品のプロトタイピングに使われる事を想定している。Linux OSが動作し、JavaScript / Python / PHP / Rubyなどで開発できる仕様は、Web開発者にとっては取り組みやすい点だろう。全てオープンソースのプロジェクトで、非営利目的の利用であれば無料でクラウドサービスを利用することができる。
Kickstarter上で4月にプロジェクトが発表された後、既に約26万8千ドルの資金を得ており、2015年の9月から発送が開始される。公式サイトからまだプリオーダー可能なので、興味がある人は是非チェックしに行こう。価格は現時点で1チップ22.50ドルだ。
Onion Corporationは2014年に創業され、PRWeb上のプレスリリースでco-founderのBoken Lin氏は以下のようにコメントしている:
「IoTは2020年までに何兆ドル規模の産業になると見込まれているが、ハードウェア/ソフトウェアのfull-stackの知識がある僅かな人々と企業だけではなく、全員がこの驚くべき機会に参加できるようになるべきだと我々は信じている。(後略)」
Omegaの他にもウェブ開発に使用される言語で開発できるボードが複数存在しており、Javascriptで開発できるTessel 2およびEspruino や、Pythonで開発できるボードであるWipy などがある。
進むIoT開発の民主化
使えそうなキットはあっただろうか?これらのIoT製品のプロモーション動画やco-founderのコメントでは、「2020年までに、500億のデバイスがインターネットに接続するようになる」といったフレーズを良く耳にする。
これらはCiscoの予測リポートを元にしていると考えられるが、上で紹介したようなプロダクト開発やプログラミングを容易にするキットの普及が、その数字を現実にしていくのかもしれない。
Internet of thingsのコンセプトが民主化するとともに、開発者が使用可能な新たなボードやPaas、開発環境は増加しつつある。これからはArduino・Raspberry Piに限らず、より自分の目的に合ったツールを探すのに時間を投資する事も必要になってくるだろう。
特にArduino/Raspberry Piを特化・改善させたようなマイコンボードはここでは紹介しきれない程存在するので、是非時間がある時にKickstarterなどを探し、試しに使ってみるのはどうだろうか。