
はじめに
教授からのWhy? Why? Why?と立て続けに押し寄せる「どういったロジックを元に〜をデザインしたのか?」という質問の嵐に対して、学生達がBecause, Because, Becauseと素早く理論を構成して「何故なら〜だからです」というロジックを組み立て続ける。そんな米国大学で展開されるデザイン講義を目の辺りにしてきた僕は、「デザインとはこんなにも理論的なプロセスだったのか」という率直な実感を持っています。
デザインと聞くと、生まれ持った才能を存分に発揮して、クリエイティブに様々なものを生み出していくというイメージをお持ちの方も多いかも知れませんが、これは全くの誤解であると言えます。本来、デザインプロセスとは問題解決を前提としているため、地味な作業の連続であり、非常に理論的なプロセスで構成されています。
僕は日本で5年間、米国で3年間デザインの教育を受けましたが、実感として米国におけるデザイン教育の方が理論的な傾向は強いと感じています。そこで今回は、僕が一体どんなデザイン教育を米国大学で受け、何を感じてきたのかということをお伝えさせて頂きたいと思います。

1. デザインとアートの違い
“What is the difference between art and design?”(デザインとアートの違いとは何か?)この質問は、米国で初級デザインクラスを受ける学生達が、教授達から頻繁に投げかけられる問いの1つです。何故この質問がよく使わるのかというと、デザインを習い始めた学生の多くは、デザインとアートを混同しているためです。デザインとアートの間には、決定的な違いあります。それこそ”Design solves a problem, art is expression”(デザインとは問題解決であり、アートとは自己表現である。)というものです。
ここから言えることは、Why?をBecauseで説明出来なければ、それは明らかにデザインではないということなのです。何となく、個人的に好きだから、感覚で、といった理由を述べた時点でそれはアート(自己表現)であり、デザイン(問題解決)ではありません。それは言い換えると、問題と向き合い、それを解決する中で生まれたモノのみがデザインであるということでもあります。では一体どういった要素や原則を元に、デザイナー達はロジックを組み立てるのでしょうか。
2. デザインの基本要素と基本原則
僕が教わったデザインの教授は、7つのwhyに答えられない者はグラフィックデザイナーではないと常々口にしていました。何故ならデザインの基本要素は7つ存在していて、そのそれぞれに対してBecauseを考えるのは基本中の基本であるとされているからです。
下記が、デザインにおける7つのBasic Elements(基本要素)です:
- Line(線)
- Color (色)
- Shape (形)
- Space (空間)
- Form(フォーム)
- Value (明度)
- Texture(質感)
デザイナー達は何かを作る際にはこれらのデザインを構成する全ての要素に対してBecauseを考えていきます。また、デザインにおける6つのBasic Principal(基本原則)というものがあり、要素を組み合わせて全体構成を考える際に適応されます。
- Balance(バランス)
- Gradation(グラデーション)
- Repetition(反復)
- Contrast(コントラスト)
- Harmony(調和)
- Dominance(割合)
初級デザインのクラスでは、優れたデザイナーがデザインしたものを上記の要素にそれぞれ分解•分析して、なぜそれが優れたデザインなのかということを知り、説明出来るようになることから始まります。
ちなみにもう少し上のクラスになると、Why?→Becauseという1つの階層で終わるのではなく、Why?→Because→Why?→Because→Why?→Because→…をどんどん繰り返すようになります。これは一つの側面からWhyを問い続けることで、問題の本質まで思考を巡らせるためです。これを様々な側面から行うことで、理論をより強固なものにしていきます。
ここまで読むと、Whyに対するBecauseさえしっかりしていれば見た目はどうでもいいのか?という疑問が浮かんでくるかも知れませんが、実はデザインにおける「問題解決」と「見た目」は密接に関わっています。
4. 機能と形態は表裏一体
デザインは美的造形性に加えて、優れた機能性も同時に兼ね備えていることが必須です。ここで言う美的造形性とは見た目の美しさであり、機能性とは本来そのデザインが担う問題解決の手段を指します。
この文脈で、有名な建築家ルイス・サリヴァンが残した”form follows function”という考え方は現代に受け継がれ、芸術やデザインの分野に多大な影響を与えました。これは機能(問題解決)を追求することで形態(見た目)が自然に定まるとする考え方です。
現在プロダクトデザインで世界的な地位を築いたAppleの創設者であるスティーブ•ジョブズが残した下記の言葉もまた、そうした考え方を深く反映するものであったように感じています。
“デザインとは「どう見えるか(how it looks)」ではなく、「どう機能するか(how it works)」の問題である” — スティーブ・ジョブズ
ただしこれを機能が最も重要という意味で捉えてしまうと本来の意味を見失ってしまうかも知れません。機能と見た目は表裏一体。だからこそwhyを問うことが重要であり、それに答えることは見た目の美しさを洗練する行為でもあるのです。
5. デザインプロセス
ではもう少し広義でのデザインを考えた時、全体的にどういったプロセスで構成されているのかということをご紹介したいと思います。デザイン分野によって細かなステップは違うものの、僕の通っている大学では大まかに以下の5段階がデザインの基本フェーズとして教えられています。
a. Understand the problem(問題の理解)
b. Gather Information(情報収集)
c. Think by sketching and choose one (アイデアの拡散と収束)
d. Production(アイデアの具現化)
e. Refine (改良)
a. Understand the problem(問題の理解)
最初の段階では、まずクライアントが抱えている問題を洗い出します。多くの場合はヒアリングをすることから始め、デザインによって解決するべき問題が何になるのかを特定していきます。
この段階で、そのデザインが達成するべきゴールは何で、最終的に見たり使ったりするのは誰で、競合にはどんな相手が居て、デザインが最終的に置かれる環境設定は具体的にどんな具合で、伝えるべきメッセージは何で、どういったイメージを利用者に抱かせるべきで、どんな反応を得たいのかといったことを突き詰めて行きます。
b. Gather Information(情報収集)
問題を特定したら、次にその問題を解決するために必要な情報を収集するべくリサーチをしていきます。オンラインではWebサイトやデータベースを見ながらファクトを集めたり、オフラインでは必要とあればインタビューを設定して問題解決のキーとなる情報を持つ方へ直接話しを伺いに行ったりもします。また、何かを作る場合にはどんなリソースが利用可能で、どういった素材を使うことが出来るのかといったことも考えていきます。
c. Think by sketching and choose one (アイデアの拡散と収束)
「合計が10となる数式を求めなさい」という問題には、1+9、2+8、3+7…というように多くの求め方が存在するように、現実の世界でも1つの問題を解決するための道筋は数多く存在しています。
そこで、問題を特定し考えるために必要な情報が揃った後は、徹底的に解決方法の数を出すというプロセスを踏みます。このフェーズにおいて、IDEOという世界的に有名なデザインコンサルティング会社が行うブレインストーミングのフレームワークは非常に有名です。
1.Defer Judgement (批判を延長する)
2.Encourage Wild Ideas (突飛なアイデアを奨励)
3.Build on the Ideas of Others (他人のアイデアを再利用する)
4.Stay Focused on Topic (テーマにだけ集中する)
5.One Conversation at a Time (1度に1つの会話)
6.Be Visual (ビジュアル化する)
7.Go for Quantity (量を追求する)
彼等はこのフレームワークを元にブレストを行い、数多くの案を次々と出して行きます。最終的には壁一面がイラストや言葉で表現されたアイデアを書いたポストイットで埋め尽くされます。
こうしたブレインストーミングに限らず、様々な切り口を拡散する思考方法をラテラル思考(水平思考)と呼び、ロジカルな思考だけでは辿り着きづらいクリエイティブな解決案にまで思考幅を拡大させることを主な目的として利用されます。
また、僕の通っている大学では「考え尽くしたら思考をオフにしてリラックスする」という方法も推奨されています。人間の脳は、まったく関係のないことをしている時に特定の答えを閃きやすいという性質を利用したアイデア発想法とされています。
こうして拡散された数多くの案は、合評やフィードバックを経て収束され、選んだ案を元にデザインを作る段階へと入って行きます。
d. Production (アイデアの具現化)
「作りながら考えろ」というのはデザインを学ぶと必ず教わるやり方です。何かを作る時、頭や紙の上だけで考えてしまうとどうしても机上論になりがちなので、実際に作りながら進めるのが一番効果的であるということを伝えています。
1-3の段階で大まかなパズルのピースは出揃い、それらをどのようにはめ込み、組み立てるかといった一連の仮説やストーリーは出来ています。しかし、実際に作ってみないと分からない部分というのがどうしてもあるため、アイデアを具現化させながらさらに作りこんでいく必要があります。
この段階で、デザイナーはモックアップやプロトタイプと呼ばれる完成一歩手前となるダミーに落とし込んでいくのですが、設計図で見るデザインと、形になったデザインを見るのとでは感じ方に天と地ほどの差があります。
また人間の認知能力というのは非常に優れていて、僕たちはデザインを見た瞬間、無意識のうちに様々な情報を認識•識別しています。こうした認知のおかげで僕たちは「あっ、このデザイン何となく好きだな」と一瞬にして感じることが出来てしまいます。
“God is in the details.”(神は細部に宿る)という言葉がありますが、無意識の認知は細部にまで及び、例え1mmの違いですら時にデザイン全体へ大きな影響を及ぼすことすらあります。だからこそデザイナー達は1mm単位までしっかりディテールを追求し、細部が全体に及ぼす感覚までデザインするように心がけています。
こうして具現化され、ディテールまで作り込まれたデザインですが、デザインプロセスがここで終わることはありません。
e. Refine (改良)
完成されたように見えるデザインも、デザイナーやクライアントではなく、実際の利用者からは思いもしなかったようなフィードバックが返ってくることがあります。これは想定したデザインの機能と、実際に作用している機能との間にギャップがあるためです。
そうしたギャップを埋めより現実的で効果的なデザインにするために、様々なユーザーテストを行っていきます。こうして集計したフィードバックを元にして、余計な機能を削いだり、足りていない機能を加えたりして、バランスを改良していきます。
上記5段階をプロセスを経て、ようやくデザインは市場へと出ます。もちろんこのプロセスは単なる基本形であり、業種によって違いますし、プロジェクトによって変形したり、新しいプロセスを加えたりするので、デザインの大まかな流れとして認識して頂ければと思います。
7. Typography(タイポグラフィ)講義
タイポグラフィとは、活字を適切に配列することで、文字の体裁を整える技術です。例えば読者の方が今ご覧になっているこの文章も、一つ一つの文字が横や縦にスペースを保ちながら並べられることで読むことが出来ます。
文字と文字との間隔、センテンスごとの間隔、センテンス上下一行づつの間隔、これら全てには名前があり、グラフィックデザイナーはこれら全てのスペースを調節します。
一行に何文字を入れて、文字間隔はどれくらいに設定するべきなのかといった作業も、実は感覚ではなくて視認性を高めるために定められたルールが数多くあります。グラフィックデザイナーはこれらのルールを適応しながら、理論的に文字情報を配置していきます。
またタイポグラフィ講義では、デザインで使用してもOKなフォーマルなフォントリストが生徒に配布され、基本的にそれ意外のフォントを授業で利用することは推奨されません。理由はシンプルで、デザインに利用出来るような美しいフォントというのは実際には非常に限られていて、無料で配布されているようなフォントは視認性や実用性が非常に低いためです。
また、それぞれのフォントの組み合わせにも相性があり、どのフォントがどのフォントとマッチするのかという相性なども学びます。こうして学生達は様々なフォーマルなフォントと慣れ親しみ、どのようにデザインへと適応させるのかを具体的に学んでいきます。
ちなみに僕の大学のデザイン学生は、タイポグラフィのクラスをA, B, Cと3つ取らなければ卒業出来ません。これは視覚デザインにおいて文字情報が占める割合は非常に重く、タイポグラフィが出来ることはグラフィックデザイナー/Webデザイナーにとっては必須であるためです。
8. 中国系移民の教授から学んだ移民の可能性
僕は米国のデザイン講義を担当する教授から、デザインだけではなく英語を第二言語とする移民が秘める可能性についても学びました。
今でも思い出しますが、僕は留学当初、明らかに中国なまりで英語も不完全な中国系移民の教授が、数多くの人気デザインクラスを担当しているという事実に驚きを隠せませんでした。彼は中国から米国大学へ留学し、その後デザイナーとして働いた後に、米国の大学でデザイン教授として働き始めたのだそうです。
アジアからの大学留学生が、後に海外就職を果たし、米国で人気デザイン講義を掛け持って教えるまでになるという彼のストーリーは、留学生の僕にとっては感動的ですらありました。
そんな中国人教授が使う英語はシンプルにして明快であり、授業内容も中国と米国のデザイン事情を交えながら教えるという移民ならではの独自スタイルを確立しています。
特にカルフォルニアでは様々な文化背景をもった教授や生徒達が同じ教室で学びあうので、講義内容だけではなく彼等の文化や考え方を知り、自分のデザイン的な視野を広げることが出来ることも一つの魅力かも知れません。
9. 必修科目としての企業インターンシップ
僕は現在、大学のクラスとしてbtraxへインターンシップをさせて頂いています。多くのデザイン系学生にとってこの企業インターンシップは必修であり、取らないと卒業することが出来ません。
デザインのアカデミックインターンシップは様々ですが、実はその7-8割以上が無給であるとも言われています。こう書くと学生達を無給で働かせるのはひどいという声が聞こえてきそうですが、実はその逆であったりします。
米国のデザイン学生達は、むしろ無給でインターンシップ出来る企業を探します。それはネームバリューのある会社は無給、ネームバリューの無い会社は有給という常識が定着しているからです。
学生達は卒業後に就職する際、ネームバリューのある会社でのインターン経験をresumeに書く事で自らを売り込むことが出来ます。多くの学生にとってはインターンで報酬を得るよりも、卒業後に希望の会社へ就職することの方が重要であるため、無給インターンであっても経験を稼ぐためにどんどん応募します。また無給インターンで働いた後に、その会社から正社員としてのオファーが来ることも少なくありません。
また、企業もこの事を熟知しているため、ネームバリューのあるデザイン会社の多くはインターンを無給とします。それとは反対に、ネームバリューだけでは学生をインターンとして呼び込むことの出来ない企業は、その対価としてインターン生にお金を払うのです。
10. MBA & Designという新領域
ビジネスとデザイン。この二つにそれぞれ全く違ったイメージをお持ちの方も多いかも知れませんが、この記事を読んで、少しデザインに対する捉え方が変わったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はデザインコンサルティングとビジネスコンサルティングは密接に関連していて、切っても切れない関係にあります。
また、様々なビジネス分野におけるデザインの重要性が高まってきている近年、デザインとビジネスの両軸を行うことの出来る人材需要も比例して高まってきています。
こうした背景も手伝い、最近はMBAとデザインを融合したコースを提供する海外大学院が徐々に増え始めています。そうした大学では、デザインプロセスからビジネス理論までを幅広く学び、最新の市場ニーズにあう知識や技術が習得できるように講義が設計されています。
僕はこうしたコースを提供する大学院に強い興味を持っているんですが、現在幸いにもこれらを実践的に学ぶ機会を得ています。というのも、btrax社はビジネスとデザインの融合を掲げているため、業務内容が非常に理論的かつクリエイティブです。もしbtrax社でのインターン内容も「米国のデザイン教育から学んだこと」に含めるとするのであれば、僕は今まさに「デザイン×ビジネス」を米国で直に学ぶ機会に恵まれていると言えます。
11. 終わりに
僕は日本と米国でデザイン観がどうしてこうも違うのだろうと留学して以来ずっと考えてきましたが、どうもお互いの国が持っている根深い文化背景に由来するところが大きいという結論で間違いないと考えています。
例えば言語一つとってみても、日本語は円を書くようなメッセージの伝え方をしますが、英語は直線的に物事を伝えます。文章の構成方法も違えば、コミニケーションの要所も全く違います。
こうした文化背景は、その土地に住む人々の思考方法に多大な影響を与えています。異なる考え方は、異なるモノを生み出します。インプットが違えばアウトプットが異なるのは必然であり、その結果として出来上がるデザインも全く違うものになっていきます。
今回は「米国のデザイン教育から学んだこと」という題で書かせて頂きましたが、僕は日本のデザイン教育から学んだことも沢山あります。どちらが良いというわけではなく、どちらにも長所と短所があり、それらをうまくバランスさせることが重要なのではないかと思うのです。
まだまだ実践していかなければいけないことが数多くありますが、日米それぞれから素晴らしい要素を学び、グローバルにデザインを展開させる上で何が重要なのかということを意識しながら、これからも真摯にデザインと向き合っていきたいと思う次第です。
* togetterにも今回の記事内容をまとめました。多くの方から反響を頂いておりますので、こちらも同時にご覧になって頂ければ幸いです。
*追記:「スペシャルインタビューブランドン氏」に、btraxのCEOであるBrandonさんが下記のトピックで受けたインタビューが掲載されました。
- 世界で勝負するために、日本が学ぶべきユニバーサルデザイン
- 日本に足りない能力とは?
- 今、世界に向けて
今どういった事が日本のwebデザインの現場に求められていて、どうやって国際化社会に対応していくべきなのかというソリューションが具体的に提示されています。今回の記事と併せて読まれると更に日米間の現状理解が深まると思われますので、是非ご覧になってみて頂ければ幸いです。
筆者: Masato Brian Miura @rami2929

はじめに
僕は高校を一年で自主退学し、高専卒業後は「デザインとビジネスの着地点を見つける!」と米国留学のために威勢良く渡米しましたが、待ち構えていたのは悪戦苦闘を強いられるアメリカ流の洗礼の数々でした。
一番始めのセメスターは散々たる結果で、大学からは「成績不振が続けばすぐ強制退学にします」という通知書が届き(なんとか次のセメスターでオールAを取り挽回)、起きてから寝るまで行った勉強のストレスで体の節々が異常を訴え始めながら、米国大学のトイレで何度吐きそうになるまで悔し泣きをしたか、今となってはもう数えることが出来ません。
そんな苦悩の日々から約3年が経った今、僕はbtraxというWeb Consulting AgencyのCEOであるBranodonさんから一本釣り的に採用され、書類審査や従業員面接のプロセスを全て省略して頂き、日本人留学生にとって非常に困難と言われる海外インターン就職に卒業する数ヶ月も前から合格し、しかもロサンゼルスに住みながらサンフランシスコの会社へリモートで勤務しています。
申し遅れました、皆さん初めまして。今月からbtrax社でインターンをさせて頂く三浦雅人と申します。Web DesignとBusiness Development (in LA area)を担当させて頂いています。
僕は留学当初は右も左も分からずに模索し続けていたので、これからアメリカでの就職やインターンを希望される方々に少しでもお役に立ちたいと思っています。この場を借りてお伝えする「僕がアメリカでのインターン就職経験を通して得た8つの学び」が何かしら皆様のお役に立てば幸いです。
1. ソーシャルメディア活用が好機を掴む
それは突然でした。ある日Facebookを確認すると、「将来一緒に仕事する可能性についてお話したいので、一度お会いしませんか?」とのメッセージが。差出人は、btrax社のCEOであるBrandonさん。「まさか!」という言葉が、頭の中を走り抜けました。
というのも、その時の僕は米国大学卒業後にbtrax社のインターンへ申込むために着々と準備を進めており、その会社を経営する方から直接連絡が来るというのは文字通り「まさか」の展開だったわけです。
後から伺ってみると、Brandonさんは僕がブログに書いたデザインとビジネスに関する記事を読み、興味を持って連絡したとのことでした。僕がブログを書いていなければ、恐らくbtrax社と接点を持つのは数ヶ月も後に遅れていたことでしょう。あるいは僕がtwitterを利用していなければ、ブログ記事がBrandonさんまで届くことすら無かったのではないかと予想しています。
数十年前にSix degrees of separationと呼ばれる「全ての人は6人を介せば全て繋がる」という仮説が立てられましたが、最近は「ソーシャルメディア上では全ての人と3人を介することで繋がることが出来る」という仮説が発表され話題になりましたよね。
これだけ個人間の距離が緊密になっているアメリカ社会では、ネットワーキングは就職において非常に重要な要素です。アメリカで本当に重要な役職は求人に載ることすらなく、人づてを経て紹介されると言われるほどなので、ソーシャルメディアを使ったセルフブランディングを行っておいて損をすることはまずないかと思います。
また米国企業のの採用担当者は応募者のソーシャルメディアを検索して人間性を確認することも多いので、プライバシー設定や公開する写真の適切性なども考慮する必要があります。
就職活動におけるソーシャルメディア活用が凄いのは、書類面接や面接のプロセスを全て省いて、CEOの方や担当採用の方と直接お話を出来る機会を得るチャンスがあるというところかも知れません。
ただし、一般的には履歴書やカバーレターと呼ばれる手紙を企業に送るのが王道です。これも非常に大切なので、個人的な経験も含めて以下に続けて書いてみたいと思います。
2. 英文resumeとcover letterは自分をマーケッティングする道具
resumeとcover letterはセットで、この二つがないとアメリカ企業への就職はまず出来ないと言っても過言ではありません。resumeとは履歴書のことで、cover letterとは企業へ自分をアピールするための手紙のことです。どのように企業を知り、自分がどのような価値を提供することが出来るのかを伝えます。
もう少しこの書類の重要性を確かめるために、試しにAmazon.comで「cover letter」とタイプすると、何と1万5千冊を超える書籍が見つかります。この数字からも、米国でどれだけcover letterが重用視されているのかが伺えるかと思います。
また企業の視点に立ってみればすぐに分かりますが、魅力的な会社であればあるほど応募者が殺到するため、採用担当者が目を通すresumeやcover letterの量は膨大になります。よってここでの勝負は、いかに自分を的確にマーケティングする(売り込む)かという一点に尽きます。
個人的な感想として、日本人が他のアメリカ人の方達と同じ方法で戦っても多くのハンデを負う上にレッドオーシャンになってしまうので、「バイリンガルマーケット(例え英語がビジネスレベルでも)」+「アメリカ人達と渡り合うことの出来る技術スキル」+「誰にも負けない何か一つの分野に対する情熱」、という3つの軸を持って挑むのがベストだと考えています。
ちなみに普段から親しくさせてもらっているアメリカ人の知り合いの方は、非常に魅力的なcover letterを書き、送信した数秒後に携帯に電話が入り、当日に採用が決まるという離れ業を成し遂げてしまいました。後からその会社のCEOの方に聞いた話しですが、彼は友人のcover letterだけを見てすぐに連絡したいと思われたそうです。
では、どうすれば採用担当の方に強烈なアピールをすることが出来るのか。この問いに対する僕なりの答えを、次に書いていきたいと思います。
3. 会社に対して何が提供出来るかを考える
医者は患者を問診することによって症状を探り、適切な薬を処方することが出来ます。このプロセスは就職する時も同じことです。
自分が企業に何を提供(薬)出来る考える時、1人で考えてしまっては全く的外れな提案になってしまいます。それは、それぞれの会社によって求めている内容(症状)が全く異なるためです。
実際に企業が抱えている問題を知らなければ、何を自分から提供出来るのかを考えることは出来ません。相手の問題を解決するために自分は何が出来るのか?という発想が、エンゲージ率の高い提案には欠かせないのです。
そこでまずは、希望する会社の事を徹底的に調べる必要があります。実際に僕もbtrax社に関するリサーチから多くを学ばせて頂きました。どれくらい調べたかというと、CEOであるBrandonさんとの最初の対談で「何でそんなbtraxの企業秘密的なことまで知ってるんですか?」と言われるくらいです。ある時は友人から「君はbtraxのストーカーなの?」と言われたこともありました。
しかし、オンラインでの情報収集には限界があります。会社の事をちゃんと理解している人に会社が何を必要としているかを聞くのは非常に重要なので、インターンの方にお話を伺ってみたり、現在働いているスタッフの方からお話を聞くのも有効です。例外なく僕もやりました。アメリカではイベント等でCEOの方を直接あたってみると、意外と収穫があったりもします。
こうしてオンラインとオフラインの情報収集を終えた頃には、企業が抱える問題や、必要としているスキルが見えてきます。それらの情報を元に、自分が何を提供出来るのかをresumeやcover letterを通して情熱的に表現することが、「何だこいつは!?」と良い意味で思われるような、「外国人とか関係なくめっちゃ会ってみたい!」と感じてしまうような、そして「もう電話をかけずにはいられない!」というアクションを取ってしまうような、そんなインパクトを与えるきっかけになるのではないかと思うのです。
ソーシャルメディアを活用し、情報収集も十分にして、resumeやcover letterを出し終えて一安心、と思っていてはアメリカでの就職はやっていけません。企業とのコンタクト段階で必ず必要となる「攻めの姿勢」についても、詳しく見ていきましょう。
4. 待たない姿勢を保ち続ける
「待つな。」これは僕の大学が行う就活講義で、学生達へ一貫して伝えられるメッセージです。このたった3文字に、攻めの姿勢とは何かが簡潔に表現されています。これこそ、アメリカ就職で僕たちが保たなければいけないスタイルだと言えます。
この「待たない姿勢」を理解することは、アメリカの就職活動文化を正しく理解することでもあります。またそれは日本の就職活動と全く異なる側面でもあるため、日本の感覚だけで進めようとすると失敗する可能性が高いかも知れません。
では具体的に何が違うのでしょうか。僕は大学の講義で教授が教えていた内容が、非常に印象的で今でも忘れられません。教授はこんな例を挙げていました。
「resumeやcover letterを出し終え、social mediaも活用し、君達に希望の企業から連絡が来たとしよう。そして企業が君に興味を持っている旨を伝え、数日後に連絡するので待って欲しいと言ったとする。さて、君達が次に取るべき行動は何かな?」
日本の感覚で言うと、ここから指定日に合わせてinterviewへの準備を万端にしたりすると思うんですが、その解答は僕の予想とは180°反するものでした。教授はこう続けます。
「企業から数日待って欲しいと言われても、決して待ってはいけない。アグレッシブかつジェントルな態度で毎日電話を入れるべきだ。企業が君のことを少し煙たがるぐらいが丁度いい。この段階で何が起きているかと言えば、企業は候補者を数名に絞る過程で振るいをかけている。その大切な選別を、運に任せてはいけない。ありとあらゆる手段を使って、彼等に君の情熱を伝えなければいけない。もしも毎日積極的に電話をかけてくるような学生が居れば、向こうもどれだけ君がその会社で働きたいのかを感じ取るだろう。この世界では情熱も立派なスキルであるということを、決して忘れてはいけない。」
ちなみに僕がBrandonさんから初めて頂いたメッセージは「近いうちにLAに行く機会があると思うので、その際にお会いしませんか」というものでしたが、僕が返信したメッセージは「今週末にサンフランシスコでお会いさせて頂けないでしょうか」というものでした。
実際に企業とコンタクトを取り始めるシチュエーションは様々な場合が考えられますが、どんな場合であっても丁寧かつ積極的なコンタクトを取り続ける事で、他の候補者達から差別化を図ることが出来るかも知れません。特に学生のスキルというのは僅差である場合が多いので、最後に命運を分けるのは個人が持つ情熱であるように思います。
こうして企業とコンタクトを取り始めることが出来れば、その先に待ち構えているのは待ちに待った面接です。いわゆる愛を告白する場所です。ここでは、いかにより突っ込んで自分をアピールすることが出来るかというのが大切になっていきます。
5. 面接という名のプロポーズ
面接はcover letterでは表現しきれなかった、一歩踏み込んだ愛をプレゼンする場であると認識するといいかも知れません。しかし、やはりアメリカでの面接は非常に厳しいです。慣れない英語での受け答えは当然のことながら、大学で面接トレーニングを受けたアメリカ学生達とも争わなければいけません。
それでも、日本人である僕達にも徹底的に出来ることが一つだけあります。それは、準備です。いかに一歩踏み込んだプレゼンを出来るかは、どれだけ準備に時間を費やしたかに比例すると思います。そしてそれは必ず、面接官へと伝わります。
皆さんは、アメリカ流のプロポーズを見たことがあるでしょうか?
このプロポーズには、一体どれだけの知力、費用、労力、時間が費やされているのでしょうか。彼は一体、どれだけの愛を持ってして彼女にプロポーズしたのでしょう。この15分のプロポーズに、一体どれだけの努力が必要とされたのでしょうか。
これは企業面接でのプレゼンに似ています。もちろん職種によって何をプレゼンするかは異なりますが、「相手が何を望み、それに対して自分が何を提供できるのか」を徹底的に考えるという原則は同じなのです。
相手の趣味趣向を知らずに告白しても、振られるのが関の山。それを踏まえて入念に準備してから、上記動画の彼のように準備万端でベストを尽くすと、Luck(運)が後からついて来るかも知れません。
6. 会社に大きな貢献が出来ないのであればインターンは採用されない
少なからず僕は最大限に貢献しようと、足りない頭を日々ひねっています。アメリカ学生の友人達もみんなどうやって企業に貢献するか、インターンをしながら必死に考えています。この不況で就職先がないアメリカの学生も多いという高倍率競争なので、まさに毎日が命がけです。
例として僕は場合は「btraxのオフィシャルwebサイトを新規事業内容に沿ってデザインし直す」というインターン採用試験を、Brandonさんと初めて会ったその日に期限付きで手渡されました。
上手くいけばインターン採用かつデザインも実際に利用されるという非常にやりがいのある課題だった反面、下手なデザインを提出するようであればインターン不採用という事実も事前にハッキリと伝えて頂きました。
アメリカではインターンに任せられる仕事の責任範囲が、正社員となにも変わらないことが多いです。そうした背景も手伝ってインターン採用は非常に厳しく行われ、個人の実力が重用視されます。
採用試験の結果、嬉しいことに僕のデザインは現在のbtraxのオフィシャルウェブサイトとして反映されています。企業の鏡でもあるオフィシャルサイトをインターンのデザインから採用するわけですから、言い換えればそれだけ責任とやりがいのある仕事をインターンに任せることの出来る環境が整っているということでもあります。
さて、採用のオファーを頂いた後は、どうやって自分という存在をアメリカの会社で主張していくかというプロセスが大切になっていきます。
7. ユニークに自分の存在感を出す
自己主張が当然のアメリカでは、自分の色を積極的に出さないと中々サバイバルしていけないという印象があります。まるで大学の授業で積極的に発言する生徒が高く評価される社会を反映するかのように、企業でも存在感を出しながら価値を貢献出来る人材が求められます。
個人的で率直な感想として、btraxで働いている方達は非常に優秀で、僕のような新米が何をどう貢献出来るのか探すのだけでも一苦労です。そこで、自分がどうすればユニークに自分の存在感を出すことが出来るのかということを、この2ヶ月間ずっと自問自答してきました。
btraxの事業活動を大まかに二分するとデザインとマーケティングとなります。僕はデザインとビジネスを何年も同時に勉強してきましたし、この二つの事業の間を円滑に繋ぐべく、両サイド的ポジションとして自分をアピールしていこうと決めていました。
結果的にデザインとマーケティングチームのどちらにも参加させて頂ける運びとなりましたし、今こうしてブログを書いているのも、文章を書くのが好きなので何か記事を書かせて下さいと僕から提案させて頂いたのが始まりです。
例え意見が採用されなくても、特に失うものは何もありませんし、アメリカではプラスに評価される可能性もあります。却下されることを恐れて発言しないくらいなら、何度断られてもいいので自分が出来ることを提案し続けた方が自分の存在感を出せるように思います。
8. 自分の将来のビジョンを持つ
今まで歩んで来た自分の短い人生を振り返ると、強烈にやりたいと思った事に対して突き進むことで、先にある予想もしていなかったような景色が次々と見えてくるという経験の連続だったように思います。
どうせ明日死ぬかもしれず、数十年しか続かない人生であれば、周りの声に耳を貸さずに、自分の心の奥深くにある声に耳を傾け、その欲求へ素直に従う生き方もいいと思うんです。
人生は誰もが平等に1度きり。それなら今、1秒づつ過ぎ去って行くこの瞬間に、時間を忘れて無我夢中になってしまう自分の大好きなことを思いきりやらずして、他に何をしろというのでしょうか。
僕はあるビジョンをもってアメリカへ留学しましたが、それは今でも色褪せることなく自分の中で育ち続けています。その想いがなければ、こうしてbtraxで働くという機会に恵まれることも無かったのではないかと思います。
高校受験に失敗した時に、親父からさりげなく渡された手紙を、今でも読み返すことがあります。寡黙で、いつも行動で道を示そうとする親父が、珍しく僕に書いた手紙の一文には、こう綴られています。
「人生は山あり谷ありです。
いつも順調に進まないのが人生です。
今、希望がかなわなくとも、再挑戦は可能です。
雅人が希望する方向を見失わないで頑張って行けば道は開けます。
まだ15歳です。焦らず、腐らず、一歩一歩進んでください。」
その優しさに対して、全く答えることの出来ない自分の不甲斐なさに、悔しさで一杯になったことも沢山ありました。それでも自分の進むべき道を見極めるべく、この手紙を何度も読み返しながら、どう人生を歩んでいくべきなのかを考え続けてきました。
幾度となく折れそうになっても、諦めずに続けて結果が、自分をこの新しいスタートラインに立たせてくれているんだと思っています。
また留学をサポートし続けてくれた家族や友人達が居なければ、ここまで歩いてくることは不可能であったように思うので、これから行動をもって感謝を示し続けていこうと考えています。
アメリカでの就職は大変のこともあるかと思いますが、アナタの選択を、そして自分の信じた道を、たとえ前が見えずとも突き進んでみて下さい。その先にはきっと、明るくて眩しい景色が、アナタを待ち続けていると、僕は思います。
P.S. togetterにも今回の記事内容をまとめました。多くの方から反響を頂いておりますので、こちらも同時にご覧になって頂ければ幸いです。
筆者: Masato Brian Miura @rami2929
先日のSF New Tech Japan Nightでは、日本発のスタートアップ6社が海外市場向けにサンフランシスコにてプレゼンを行い、地元オーディエンスから大きな注目を集めた。その一方で、北米や海外への展開という点においては、ここ最近中国企業の勢いが凄い。2008年の北京オリンピックをきっかけに、世界の下請け工場から、グローバルブランドを輩出する国家への変貌を遂げる第一歩を踏み出している。
こちらの記事: 世界のブランドランキンを見ても分かる通り、実に100社中、12社が中国企業であり、名実共に実力を付けて来ている。その秘訣を探るべく、btrax社では、12/8/2011にイベントを開催。中国発の企業でアメリカで成功を治めた経験のある方々とのパネルディスカッションを展開する。
■イベント概要
中国企業が急速に世界中で拡大するにつれて、価格が安く、偽物の商品だけを生産しているという中国の既成イメージは近年だんだんと薄れてきている。アメリカ市場で作られ刷新された製品、戦略的パートナーシップや買収を通して中国の評判を革新しているチャイニーズビジネスリーダー達による産業を越えたパネルディスカッションをAsia Societyとbtrax社が主催する。
■イベント詳細
日時:2011年12月8日18時〜21時
場所:Asia Society Northern California
住所:500 Washington St. San Francisco
■スケジュール
18:00-18:45 受付、ネットワーキング
18:45-19:00 パネリスト紹介
19:00-20:30 パネルディスカッション、Q&A
20:30-21:30 ネットワーキング
■ディスカッションテーマ
- 中国企業を世界へと拡大させる動機
- 中国国民10億人による国内での評判が海外拡大戦略に与える影響
- アメリカ市場における中国企業が直面している困難と成功の方法
- 中国の安価製造国家からブランドリーダーへ移行に関し日本でのケースとの比較
- 企業が海外へ進出する為に中国内部での知的財産権保護に対する意識の変化
■モデレーター

Hanson Li 氏
(Managing Director -The Hina Group)
■パネリスト

Brad Bao氏
(Chief Representative– Tencent America)

Guolin Wang氏
(Executive Vice President– Huawei American R&D Center)
■主催

Asia Society―アメリカとアジアの人々、リーダー、そして機関を繋ぎ、お互いの理解を深めることを促進し関係を強くする為のリーディンググローバル・パンアジアオーガニゼーション。

btrax (ビートラックス)―サンフランシスコ・シリコンバレーを拠点に特にアメリカ・日本・中国を中心としたグローバル市場向けWebコンサルティング・サイト制作サービス等を提供。
【スポンサー募集中!】
現在、当イベントのスポンサーを募集しております。お気軽にお問い合わせ下さい。
担当者 : 田制
E-mail : asuka@btrax.com
僕が経営者として、アメリカで会社を経営する際に一番重要視しているのが、正しいコーポレートカルチャー(企業文化)の形成である。自社が提供するサービスのクオリティーを始めとして、人事や作業効率まで、多くの側面に対して企業文化が影響する。会社のカルチャーが悪ければ、優秀な人材の獲得及び保持は難しくなり、クリエイティブな発想も生まれにくくなる。結果的に提供サービスの質も落ち、業績が悪くなるといった負のループを生み出してしまう。
逆に優れたカルチャーの形成に成功すれば、極端な話、ある程度放っておいても会社は自ずと成長する。カルチャーが優秀な人材を獲得/育成し、作業効率が高い環境下でスタッフが最大限実力が発揮出来る。それにより優れたサービスが生まれるのである。企業文化とは一言で言うと、その会社の”雰囲気”であり、従業員が気持ち良く仕事をする事が出来る”環境”でもある。その形成要素はオフィスのインテリア、レイアウトから始まり、勤務体系、人事システム、組織構成、レクリエーション施設、そして経営者の人格に至るまで幅広い。以前にEC studioの山本社長が書かれた記事にもある通り、日本とアメリカのオフィス環境はかなり違う。
ここ最近、クライアントや友人の会社を訪問するうちに、急成長中を成し遂げている会社には共通した企業文化がある事を発見した。それもサンフランシスコ市内の会社のカルチャーはシリコンバレーや他のアメリカの地域の会社と比べてもかなり独特で、それ故にユニークで優秀なスタッフを引きつけているといっても良いだろう。スタッフがその会社のカルチャーを気に入ってくれれば、離職率をぐっと下げる事が出来る。成長しているスタートアップ企業は多くの場合、かなり自由な雰囲気で、管理も緩い様に見受けられる、しかしながらそれぞれのスタッフが責任を持ってしっかりと結果を生み出す事が出来るカルチャーにはどんな秘密があるのだろうか?
サンフランシスコ市内で急成長している会社の10の共通点
会社が急成長している場合、毎週の様に複数のスタッフが増員され、短時間で会社の規模が拡大する。一方で、全てのスタッフに対して細かくマネージメントを行うのは現実的に不可能になる。特にクリエイティブなポジションが重要視されるWebスタートアップ系の場合、あまりがっちりとした管理体制は逆効果で、スタッフの流失を招いてしまう。そこで重要になってくるのが企業文化である。これから説明する10のポイントは、ページ下部にリストされている急成長中のサンフランシスコのスタートアップに共通してみられるコーポレートカルチャーの構成要素である。
1. おしゃれでかっこいい
この街のスタートアップ企業のオフィスに来てまず感じるのが、開放的でおしゃれであると言う事。多くのスタートアップオフィスの壁がレンガ製なのは、彼らが密集する地域:SOMAエリアの建物が元々は倉庫だったのが理由。古い建物を改造している事が逆にレトロでおしゃれでかっこいい雰囲気を演出している。また、家具屋やインテリアもモダンでスタイリッシュな物をそろえている所が多い。恐らくセンスの良いオフィスマネージャーもしくは、外部のインテリアデザイナーの仕事であろう。オフィスがかっこいい事で、スタッフも気持ちよくクリエイティブな仕事が出来る。まさにデザインの力である。よく日本からうちのオフィスに来られた方が、「おしゃれなオフィスですね」と言われるが、この辺では実はかなり標準レベルである。
2. オープンなコミニュケーション
オフィスの雰囲気が開放的であると同時に、コミニュケーションもオープンにしている所が多い。特に会社が大きくなってくると、なかなか近付き難くなるCEOも気さくに話しかけられるような仕組みを提供している。例えば、Twitter社では毎週金曜日の午後に誰でも社長室に入り、提案や提言が出来る時間を設けていたりする。また、会議室の壁もガラスで覆われているオフィスが多く、どのような人々が話し合っているかが一目で分かる。もちろん社内SNSやメッセージシステムで部署の隔たりを超えたコミニュケーションが出来るのは言うまでもない。また、社外の人が出入りしやすい様に出入り口のセキュリティーはあまり厳しく無く、就業時間以降はイベント開催の場所としてオフィスを開放したりする会社も多い。他社のスタッフとの交流の機会が増える事により、社内だけでは思いつかないアイディアを取り入れる事が出来る様になる。
3. 愛社精神を育む遊び心満載のグッズ
この辺の会社を訪問していつも楽しみなのが、オフィス内にある自社グッズである。会社のロゴの入ったステイショナリーは基本で、ソファに置いてあるクッションや壁にかけてあるポスター、らくがき、そしてカーペット、スクリーンセイバー、T-シャツ、バッグ、栓抜きまで至る所に会社のロゴや、サービス名をもじったデザインが施されている。多くの場合、あまり忙しく無い時に社内デザインチームが遊びの社内向けプロジェクトで作ったりするのだが、これがまた愛社精神をアップさせる要因に一役買っている。会社の利益の一定の割合を社内グッズの予算として割り当てている会社もあり、利益がアップされると社内の面白グッズが増えたりする。ちなみに会社で作るT-シャツはかなりお土産として喜ばれるので、日本から来られる方は是非自社T-シャツを沢山ご持参下さい。
4. フラットな構成としっかりとしたレポートシステム
組織構成は、プロジェクトによりそれぞれのチームごとに分れているケースが多いが、日本のような縦型ではなくて、フラットであるケースも多い。しかしながら、責任者へのレポート形態はしっかりと構築されており、作業が効率的に進み、進行具合が一目で分かる様になっている。全体的にフラットな雰囲気であるが、情報伝達はしっかり出来ており、権限と責任の分担範囲がきっちりと定められている。組織はフレキシブルであるが、自分の担当範囲があやふやになる事は無い。また、良いアイディアを思いついたスタッフは、直々の上司を飛び越えてCEOやCTOに進言出来るようになっており、適切な評価が得られる。また、CEOは個々のスタッフに対して、何時でもしっかりとした会社のビジョンを伝えるのが仕事である。
5. 個性の出せるデスクエリア
オフィス全体の雰囲気がクリエイティブである事は重要であるが、それと同時にそれぞれのスタッフが好きな様にデスク周りをカスタマイズ可能にしてある。日本国内の会社のデスクが全て同じに見えるのと対照的に、アメリカの場合、スタッフの個性が出る。特にサンフランシスコの会社はそれが極端で、例えば日本好きなスタッフの机には日本刀やだるまが置かれていたり、自然好きなスタッフのデスクは一見サファリパークだったりする。若いスタッフが多い会社だと、デスクエリアに遊び道具が散乱しているケースも珍しく無い。
6. どこでもリラックスして仕事ができるスペース
自分のデスクに座りっぱなしだとクリエイティブな発想が生まれない事も多い。それを解消する為に、どこでも仕事が出来るような環境が整っていたりする。オフィスの空いているスペースにソファが設置されていて、寝転がって仕事をしてもOK. それ故に、オフィスの至る所の壁がホワイトボードになっていて、思いついた時にメモが出来る様になっている。場合によっては、気分転換の為に最寄りのカフェに行くのも許可されている。また、息抜きに遊べるようなパターゴルフやビリヤード、ダーツがあったりする。スタッフの脳からより多くのα波が出るような施策が施されている。
7. 動物フレンドリー
他社のオフィスに遊びに行くと犬が飛びついてくる事がある。多くの会社でペット同伴を許可しているだけではなく、推奨もしている。動物がいる事でスタッフの心が和み、自ずと良いチームワークが生成される。実は、btrax社のクーパー君も幾度と無くスタッフに癒しの時間を提供し、ストレスを軽減させている。ファウンダーの愛犬の名前がそのまま社名になっているZynga社オフィスには多くの犬がおり、専用の犬用プレイルームまで完備している。ペットを飼っているスタッフにとっては、他には無い魅力となっている。
8. 飲み物と食べ物が充実
Googleが流行らせたと言っても過言ではない社内での食事提供は、サンフランシスコでも大人気。特にこの街ではヘルシー志向の方が多いので、サラダ等の野菜を中心に会社がスタッフにランチを提供している。オフィスの至る所に飲み物の冷蔵庫やスナック菓子コーナーが設置されており、最近では伊藤園のおーいお茶がこのエリアのスタートアップには大人気になっている。会社によってはシェフがいたり、ケータリングを頼んだりもする。また、月に一回スタッフ同士でクッキングコンテストを行っている所もある。
9. フレキシブルな勤務体系
アメリカの企業で残業が少ないのは有名な話だが、この辺では勤務体系も非常にフレキシブルに設定している。よく見られるケースは、コアアワーとフレキシブルアワーの設定。例えば、10時から17時までは必ずオフィスにいる必要があるが、それ以外はその日によって自由に変更し、最終的に一日8時間就労すれば良いといった仕組み。これにより、例えばバスや電車が遅れても、遅刻を心配する事が無く、無駄なストレスを生み出さない。また、夜学校に行っている人等は、早朝出勤をし、早めに上がる事も出来る。個人の生活リズムに合わせた勤務体系と言える。
10. 厳しい評価基準/成果主義
一見自由で管理の緩い企業文化だけの様に見える一方で、人事の評価や成果に対する基準はシビアである。自由に仕事ができる反面、明確なゴール設定と、評価基準、そしてチームスタッフ全員から評価を受ける360 Evaluation Systemにより、成果を生み出す事の出来ない、もしくはチームにとって不利益なスタッフは容赦なくクビになる。逆に考えると能力のあるスタッフにはフェアなシステムであり、しっかりと結果が出せるのであれば、仕事の仕方に細かく口を出さないのがスタートアップ企業の一番ユニークな企業文化である。また、会社によっては、部下から上司や社長に対しての評価システムを採用している事もあり、経営者といえどもあぐらをかいてはいられない。
日本では企業文化を重要視する企業がまだまだ少ない様に感じられるが、アメリカだと流動性の高い優秀なスタッフが会社を選ぶ上での大きなファクターになっている。これからは高い給料だけでは優れた人材の獲得には限界があり、より良いカルチャーの形成が経営者の大きな仕事の一つとなってくるであろう。日本から来た企業がアメリカで現地のスタッフを雇う時には是非気をつけたいポイントでもある。また、もしかしたら日本とこの辺のスタートアップの実力の差はこんな所にも要因があるのかもしれない。
今回参考にした企業:
Twitter, Yammar!, Adobe, ngmoco, USTREAM, Yelp, SAY media, Cruncyroll, Zynga, Method, Automattic, Vertical Brands, Justin.TV, Current TV, Trulia, EventBrite, Mochi Media, Scribed, Bloomspot, Twillio, Lunar Design, odopod, btrax
筆者: Brandon K. Hill @BrandonKHill
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